大切なもの1
あれから、2ヶ月…。
コクピットの窓に、小さく光っていた一つの星。それが、日に日に大きくなり…
今ではフロントウィンドーに収まりきらない大きさとなって、目前に迫っていた。
あの蒼く美しい惑星。僕達の故郷、地球。この宇宙でたった一つ…生命に溢れる惑星―。
あの忘れられない夜が明けて、小型船による燃料補充を終えた後、6人の仲間をMSに迎えて俺達は地球へ向かった。
8人で過ごした2ヶ月はとても楽しく、瞬く間に過ぎてしまった。
俺は、みんなの食料を賄うために毎日温室で働いていた。ここで作る食料が8人の命の支え。
皆の命を守るために、俺は畑仕事について真剣に勉強した。それでも、本や資料を読むだけで学べるものではない。ボブやシューラ達と一緒に、試行錯誤しながら、一つ一つ覚えていったんだ…。
思い出に浸りながら、2ヶ月間お世話になった畑を片付ける。間もなく着陸だ。
ふと人の気配を感じて、振り返った。
「今日まで本当にありがとう、ワタル」
その相変わらず落ち着いた声が、耳に心地よい。俺の大切な友達。
俺は彼に微笑みかけた。
「アンドレイ。体調はどう?」
地球への旅路の途中、俺はずっと彼の治療を続けていた。命の危険は無くなったものの、彼は相当体力を消耗していたので、油断できない状況だったのだ。
「ワタルのお陰で、ここまで来られたんだよ。地球に戻ったらしっかり体力を回復させて、また頑張るから。見てろよ」
「うん、見てるよ。…でも、寂しくなるな…」
俺達はしっかりと抱き合った。
「これからは、お互い地球の反対側で暮らすんだもんな…。でもすぐにまた会えるよ。冬の休暇にはワタルの家に押しかけるからね」
「…うん」
俺は他のクルー達とも一人ずつ抱擁を交わした。
最後にボブにこう言った。
「アンドレイの事、元気になるまでよろしく頼むよ」
「任せろよ」
ボブは俺の背中をバシッと叩いた。
「俺は、ワタル先生の一番弟子なんだから大丈夫!」
「俺がボブの事監視しとくし」
シューラが横からボソッと口を挟んだ。
「…ねぇシューラ、どういう事?アタシは信用ないのかしら?」
ボブがおネエ言葉でシューラに迫る。
…やれやれ、また始まった。この二人は喋り出したら止められない。俺は苦笑しながら傍観していた。
「…ハイそこまで。二人とも、出かけるよ」
アンドレイの一言で、二人はすぐに大人しくなった。騒がしい二人に、冷静なアンドレイ。バランスの良いトリオだ。
「じゃあ、またね。ワタル」
そう言うとアンドレイは、両手で二人の襟首を掴むと彼等を無理矢理引きずっていった。
それが可笑しくて、結局笑ったままの別れになってしまった。
彼等が出発した後、俺はコクピットに戻り、窓から、地球に向かっていく小型船を見送った。
―ありがとうな―
その後ろ姿に、呟いた。