出発4
数時間かけて、温室での作業を一段落させると、コクピットへ向かう。
地球へ向かう間も、エネルギーを節約する必要があるので、コクピット周辺と温室以外の暖房は後程カットする。だから、コクピットで8人が2ヶ月間快適に過ごせるように整えるのだ。と言ってもベッドを作って、カーテンで仕切るくらいの事なのだが。
…ようやく終わった。
夜も更けてきた。あと30分で日付も変わってしまう。
疲れたな…。朝から何も食べてないのに、よく働いた。空腹も限界。それに眠い…。
座りこんでウトウトした俺を、メグが揺すって起こした。
「ワタル、大切な用があるの」
あれ?まだ仕事あったかな?
俺は、何とか立ち上がると、メグの後をついていった。
そう言えば、俺の方もメグに大切な話があったんだ。俺が決心した、これから生きる道について。
俺は前を歩くメグの背中に呼び掛けた。
「メグ。俺、MSの大学辞めようと思うんだ」
メグはびっくりして振り返った。
「結婚したからって辞めなくてもいいのよ?貴方なら、誰よりも立派な医者になれるはずなんだから!」
「うん、また何かの方法で勉強は続ける。でも俺は、地球で人間らしく生きたいんだ。君と一緒にね」
「私は…」
…それは、メグがSSPを辞めることを意味するかもしれない。しかし、メグも本当は、ずっと地球にいたいと願っている事を、俺は知っていた。
メグは、自分の命がお父さんの命と引き換えに救われた事を、ずっと背負ってきた。それ故に、自分の全てをSSPの職務に捧げたのだ。
今度は、彼女が自分の幸せを掴む番だ。絶対にメグに幸せになって欲しい。過去からは自由になって欲しい。お父さんも、それを願っていたはずなのだから…。
「メグ、君も自分の心に素直になって考えてみて。本当は地球で暮らしたいんじゃないのか?遭難するまでの間、毎日展望室に来て地球を眺めていたじゃないか。地球で、一から始めようよ。そして地上で、人の命を支える仕事をするのはどうかな?」