出発3
MSに戻ると、俺はポートにある2機の小型船をみんなの宇宙船のところに移動させる作業を始めた。
明日、宇宙に打ち上げたMSへ残りの燃料を運んできてもらうためだ。俺達は、彼等を迎えるためにMSの環境を整える仕事がある。
小型船を移動させた後は、MSへ歩いて戻らなければならず、それを2回行うので少し時間がかかる。
俺が小型船の移動を終えて、やっとMSに戻ると、メグが笑顔で迎えてくれた。
「お疲れ様」
ねぎらいの言葉と共に、手渡されたタオルで汗を拭いた。
メグの笑顔が、俺の疲れを一瞬にして心地よいものに変えてしまった。
結婚って、大きな責任を担う事だけれど、君が傍にいてくれたら、俺はきっと何でもできるな。これからずっと、頑張るからね。
そんな未来への自信と決意が、俺の中に満ちた。
俺はコクピットのシートに座ると、しっかりベルトをした。
操縦席にいるメグが、パネルのボタンを押し、レバーをいっぱいに引いた。
轟音と共に、MSは上昇を始めた。
体をシートに固定していても、ガタガタと激しく揺れ、潰されそうなほどの圧力が襲ってきた。
MSは今、とてつもないエネルギーを爆発させていた。
数十秒で大気圏を脱出、スムーズに旋回体勢に入った。
「さあ、皆さんを迎える準備をしましょう」
メグが席を立った。
エネルギーの充電されたMSでは、コクピット周辺以外に必要な各所で、宇宙服を着なくても過ごせるよう空調が整えられていた。そして、重力も作り出されていた。
まずメグに連れられて来たのは、温室だった。ここの畑で、あらゆる作物が短期間で作れるようになっている。通常はこのスペースでMSの食料は賄われているのだ。
ここの存在は知っていたが、来たのは初めてだった。
地球との距離は以前より短くて2ヶ月で帰れるが、8人が生きていくためには食料を生産しなければならない。
畑は、MSが遭難する前の状態だったため、まずそれを二人で片付ける。そして、すぐに食べられる種類の野菜を栽培する。
畑仕事は初めてなので、戸惑いながら土に触れる。
懐かしい、そして優しい感触だった。
「これは地球から運んできた土だからね」
メグが言った。
…やっぱりそうなんだ。地球こそが人の住みかなんだ。遺伝子が人の心に深く刻んだその掟に逆らっては、人は人として生きられはしない…。
俺の胸に新たな決心が生まれた。
それは、心の命じるままに生きていく事だ。