出発2
カデットさんは、俺を見て悪戯っぽく笑うと、横を見て合図を送った。
すると側のドアが開いてシューラが現れた。彼もまた俺を見て悪戯っぽく笑うと、俺をその部屋に招き入れた。
そこには、大きな袋を抱えたボブが居た。MSを出ていく時に持っていた袋だ。
ボブもシューラと同じ笑みを浮かべながら、袋を開けた。そこにはロングタキシードが入っていた。
「MSの式場から借りてきたんだよ。ホワイトさんの衣装もね」
呆気にとられている俺を見て、シューラが肩をポンと叩いた。
「ほら、俺とボブが白衣の漂白するって話してたの、聞いてただろう?あれはお前を自分の気持ちに気づかせるための芝居だったんだけど」
「その時シューラがお前の白衣を持ち出してね。そのサイズから推定して、衣装の丈を合わせておいたんだよ」
そう言われて見ると、確かにガタガタの縫い目で裾上げされていた。
「おい…泣くなよ…」
ボブに言われて自分が泣いているのに気づいた。
「お前に言われた通り、素直になったんだよ」
俺はクシャクシャの顔のまま、二人を抱き締めた。
「こうなるって、初めから俺とボブは分かってたんだからね?」
「ありがとう、シューラ…二人とも本当にありがとう!」
そこへドアが開いてカデットさんが顔を出した。
「おい、今日の明るいうちにはMSを発射しないといけないんだからな、急いでくれよ」
「あ、はい」
気がつけば、とうに正午は過ぎていて、陽は傾き始めていた。
俺は急いでタキシードに身を包んだ。
通路に出ると、クルー達が全員集まっていて、拍手で迎えてくれた。
カデットさんがメグをエスコートして俺のところに来て、彼女の手をとって俺の手に重ね合わせた。
「皆、この二人を夫婦として迎え、新たな出発を共に見守ろうではないか!」
彼の呼び掛けに応えて、拍手と歓声が鳴り響いた。
こんなに…幸せで、いいのだろうか…?
それくらい、俺は幸せで胸がいっぱいだった。
ありがとう、みんな…。ありがとう、メグ…!
ずっと幸せに浸っていたかったけれど、俺達はすぐに着替えてMSに向かった。
ふと振り返ると、メグが大分後ろを歩いていた。火星の重力は小さいが、それでも宇宙服は重い。メグは息を切らしていた。俺は駆け寄った。
「ごめんね、俺歩くの速すぎたね」
俺はメグの手を取り、ゆっくりゆっくり歩いていった。
そう、これからもずっと、こうして二人で歩んでいくんだ…。