出発1
入口からずっと奥へと続く細長い通路。
その壁に並んでいる小さな窓から、幾つもの光の筋が差し込んでいた。
その光の向こうに、何かが白く輝いている。それはまるで羽のように、儚げで柔らかな光を湛えていた。
それは、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
俺も引き寄せられるように、それに近づいていった。
それは…彼女だった。
言わなければならない事がある…。もう時間は無い。
しかし、声は出ない。息さえまともに出来ない。
純白のドレスに包まれたその姿、その目から溢れる雫―その全てが光の束の中で鮮やかに光彩を放ち…その美しさに、我を忘れた。
目の前にある、でも触れると消えてしまいそうな…美しすぎる幻―
「今まで私のせいで苦しめてしまって…ごめんなさい…」
その震える唇が、俺に語りかけた。
「私…私、ワタルを愛してるの…」
これは…夢…だよな…?
俺は手を伸ばした。
すると―彼女の頬を伝う涙の温もりが、俺の震える指先にはっきりと伝わった…。
―夢じゃない―
その瞬間、目の前が霞んだ。
感じるのは、俺の頬を流れ落ちる一粒の熱い滴。そして、腕の中にしっかり抱き締めた、大切な人の温もり。
…失うところだった…。僕は、かけがえのない人を…失うところでした…!
「メグ…、一生僕の傍にいてください」
言おうと思っていた言葉が、やっと出てきた。
メグは、俺の胸にうずめていた顔を上げると、俺の目を見て微笑んだ。
「はい」
すると、彼女の後ろから、カデットさんが現れた。
彼はメグに近づくと、手にしていたウェディングベールを彼女の頭にそっと掛けた。
そして俺に険しい顔を向けた。
「必ずメグを一生大切にしろよ!」
「はい。約束します」
俺ははっきりとそう答えていた。
俺には財力も安定した立場も無い。だけど、彼女を大切に想う気持ちは誰にも負けない。
絶対に、精一杯彼女を幸せにしてみせる。
俺の表情からその決意を感じとったのだろうか。カデットさんは優しく微笑んだ。
「最初からメグが君を愛してるのは分かっていたよ…。その真っ直ぐな姿に惚れてしまった私は、自分でも馬鹿だなと思いながら…想いを伝えずにいられなかったんだ…」
彼も俺と同じだったんだ。無理だろうと思いながらも、自分の気持ちに嘘はつけなかったんだ。
こんなに大人でも、自分に正直でいる勇気を忘れていない人だったんだ…。