子供心と大人心3
ポートには小型船が2機スタンバイしていた。
打ち上げたMSに燃料を運ぶのは1機あれば可能だ。
俺は片方の小型船に乗り込むと、操縦席でコースをセットし始めた。
3人分しか席がない小さな船。
地球まで2ヶ月もかかるというのに、辿り着けるのだろうか?
大体この船には、2ヶ月分の食料を載せるスペースも無い。無事に還れるわけがないのだ。でも…。
俺にはここは辛すぎる。他人の妻になる君を見ていたくないんだ。悲しすぎる。
俺はもう、全てを忘れるから。
これを最初で最後の恋にするから。
幸せになれよ、さよならメグ…。
…
どれくらい時間が過ぎたのだろうか。
ふと気配を感じて振り向くと、ボブが俺の後ろに立っていた。
大きな袋を抱え、鋭い眼差しで俺を見つめている。
俺はその視線に負けないようにボブを見つめ返した。
「ボブ、薬品等は君に預ける。君達の船に戻って皆に伝えてくれ。俺はこれに乗って先に帰るから」
「分かった。確かに伝える」
ボブは、その表情を全く崩さずに答えた。
「だが、一つだけ言っておく…」
その次の言葉に、俺の中で電気が走った。
『自分に悔いの無いようにやれよ』
ボブは、その言葉を残して去っていった。
MSに、この都市の中にたった独り。
取り残された俺を、耳が痛くなるほどの静寂が襲う。
押し潰されそうになりながら、船のメンテナンスを続けた。
いつか、このポートで同じ静寂に襲われた事があった。そう、5ヶ月前に…。
俺はメンテナンスを終えると、船を降りてMSのコクピットへ向かった。
そこに貯蔵されている食料を集めるために。
あの小型船に積めるだけ積むのだ。2ヶ月分には到底及ばないだろうが…。
エネルギーのチャージされたMSは、食料生産が出来るから、他の皆の食料は心配要らない。
コクピットの前に着いて、扉を開けた。
その空間は、フロントウィンドーから差し込む眩い光に包まれていた。
一瞬、操縦席にメグが見えたような気がした。急に明るい所に出たせいだろうか。
窓の向こうには、空高く昇った太陽が、火星の大地を照らしていた。
今日の正午、メグはカデットさんと永遠の愛を誓う。
5ヶ月前、俺がメグを追い掛けてこなければ良かったんだ…。
己を悔いた。
追い掛けてさえいなければ、こんな俺が、メグを愛してしまう事なんて無かったはずなのに。