子供心と大人心2
「そんな、勝手に決めるなよ!」
かーっと、頬が火照るのが分かった。
「ずっとワタルを見てて思うんだ…」
そう言ってボブは遠くを見た。
「お前はすごく立派な大人だ。若いのに落ち着いて行動して、仲間もリーダーも元気にしてくれた。とてもまだ学生とは思えない。だけど…」
ボブは俺の顔に視線を移すと、一息ついてから更に続けた。
「“先生”でないお前は、まるで子供のようだ」
『子供』…その言葉に苛立ちが膨れ上がった。
それはずっと背中にのしかかっていた。
何とか大人になろうともがいてきた。…それなのに。
「…馬鹿にしないでくれる?!もう20歳なのに子供だなんて!」
「止めないのか、ホワイトさんを」
間髪いれずにすっと言われて、俺は黙ってしまった。
俺はもう一度考えた。
冷静に、客観的に。
やはり、答えは変わらない。
「…メグの決めた事なんだ。俺の口出しする事じゃない」
ボブは俺を見つめると、微笑んだ。
次の瞬間―
ボブが突然振り上げた掌が、乾いた音を部屋に響かせた。
パシッ……
この部屋の全てが止まった。空気の流れも、時間さえも。
俺はゆっくりと左頬に手を当てた。確実に熱くなっているのが伝わった。
痺れが消えて、徐々に左頬の感覚が戻ると共に、俺の思考も戻ってきた。
肌の表面を走り抜けた痛みが、脳のスイッチを入れた。
「何すんだよ!」
俺は怒りのままに声を荒げた。
「何大人ぶってるんだ!!」
すぐにボブの怒声が俺を圧倒した。
「子供なら子供らしく素直になったらどうなんだ?!」
「悪かったね、ひねてて」
俺はまともに言い返す事も出来ず、顔を背けた。
―そうだよ、俺は嫉妬してたんだ、カデットさんに。全て完璧で包容力の有るあの人に…。
だけど、どうしようもないじゃないか今更…。
「ホワイトさんを愛してるんだろう?だったら追い掛けたらいいじゃないか!」
「いいんだ、もう…」
いたたまれなくなって、俺は席を立った。
ボブを残して部屋を去り、ポートに向かう。
「畜生…!!」
声にならない叫び。
やりきれない思い。
…ボブの言う通りだ。素直に追い掛ける事も、祝福する事も出来ない…
『子供』と『大人』の間、宙ブラリンの自分…。