子供心と大人心1
今まで通りの朝。
今まで通り、作業が始まった。
今まで通り、クルー達は彼等の船とMSの間を往復して燃料を運んでいる。
だが、もう、今まで通りではなかった。
クルー達から、報告を受けた。
お祝いムードで沸き立つクルー達。当然だ。
彼等の慕うリーダーが回復し、同時に婚約が知らされたのだから。
結婚式は明日の正午、MS打ち上げの直前に、MS内の市役所で入籍と共に行われるそうだ。
俺は彼等と一緒に、笑顔で喜びを分かち合った。
ただ、いつもは一番騒がしいボブとシューラは、口数が少なかった。
彼等が再び作業に戻り静かになると、張りつめた糸が切れたように、俺は座りこんだ。
たくさん笑った分だけ、息苦しくなっていくもう一人の自分。
「―ホワイト…」
ふと耳についた言葉に振り返ると、後ろでボブとシューラが何やら話していた。よく聴くと、
「白衣の漂白、そろそろやらなきゃな…」
という内容だった。
何だ。白の[white]だったのか。俺は溜め息をついた。
シューラはボブの肩をポンと叩くと、作業に加わりに行った。
「メグメグメグ…」
ボブの声に、また俺は振り返った。
「あー、マグマグ…マグカップはどこだ〜」
聞き違いか…?そうじゃない気がするが…。
しかし自分では平静を保っているつもりが、内心は決してそうではない事に気づいて、俺は愕然とした。
本当は、彼女の事が気になって仕方がないんだ。だけど…。
ボブが、マグカップにコーヒーを入れて持って来た。
「先生、昨日は一日中リーダーの治療で大変だったでしょう?今日はゆっくりしていいですからね」
「ありがとう」
差し出されたマグカップを受け取った。
「でも昨日はリーダーにかかりきりだったから、その分みんなの体調管理を頑張らないと…」
俺は、そう自分に言い聴かせて発破をかけようとしていた。
それに、動いて気を紛らわさないと、どこまでも落ち込んでいきそうだから…。
「そうですね先生。でも昨日は、自分独りで色々やってみて勉強になりましたよ」
いつも通りテンションの高い彼に、俺は思わず尋ねた。
「ボブ、医学の勉強…楽しい?」
「もちろんです。先生は違うんですか?」
「何だか…分からなくなってきた…」
吐息と共に言葉を押し出すと、虚しさを埋めるかのようにコーヒーを口に流し込んだ。
「ホワイトさんが結婚するからだろう?」
不意をつかれて、俺はコーヒーを吹き出しそうになった。