トライアングル6
MSに戻ってから、ボブは、メグが話していた計画の内容を大まかに説明してくれた。
彼等の宇宙船から、MS打ち上げに必要な最低限の燃料を移す事にしたらしい。
それは、容器に入れて台車で運ぶという手作業で、1週間かけて行われる。
そして1週間後に打ち上げ。
その後MSは火星を周回しながら待機し、その間にMSにある小型船を使って、残りの燃料を移す。これは半日あれば終わる作業だ。何故なら、宇宙空間での移動に必要なエネルギーはそれほど多くないからだ。
しかし、今から打ち上げのために移さなければならない燃料の量は膨大だ。クルー達は重労働を強いられる。
俺達も作業に参加するが、体調の優れないクルー達のため、MSでの診療も続ける事になった。
ボブも、引き続き俺の助手を務めるようリーダーに言われたらしい。
彼は、他にももう一つ仕事を頼まれていた。それは、MSのエネルギーを調整する事。
太陽光は火星の大気に拡散されているため、反射鏡が無くてもMSの太陽電池に光を受ける事が出来ていた。
お陰でMSにはかなりのエネルギーが補充されていた。
それで、動力系統にもエネルギーを回す事が可能なのだ。
MS発射に燃料は不可欠だが、補助的に電力を使う事で燃料の消費を抑えられる。
「多分大丈夫だとは思うけど、俺まだMSには詳しくないから、一緒に見てくれる?」
ボブの頼みに、俺はもちろん快諾した。
だが同時に疑問が頭を駆け巡った。
MSに関する事なら、メグほどの適任はいない。
帰路の計画は完成したというのに、どうして彼女は帰ってこないんだろう。おかしい…。
気がつけば、その疑問を口にも出していた。
俺は、ボブにすっかり気を許してしまっていたようだ。
「計画を更に練るために、まだ一緒にいてもらいたいってリーダーが言ってたんだけど…」
ボブはそこまで言うと、しばらく黙りこんだ。
やがて、ゆっくりと口を開いてこう言った。
「俺とシューラは、ワタルの味方だからな」
俺は驚いた。…もしかしてボブは、俺のメグへの気持ちを知っているのか??
確かに、俺は焦っていた。
メグを早く自分のもとに取り戻したい。カデットさんからは遠ざけておきたい…。
さっきの疑問が、そんな感情から出たものである事は、自分でも分かっていた。
だけど、ボブもそれに気づいているのだろうか…。
しかしボブは、この事についてはそれ以上語る事なく、
「クルー達の夕食は何にします?先生」
と、助手の顔に変わっていた。
俺達は仕事に戻った。