トライアングル3
そんな事を考えつつ迎えた翌朝、そのケレンスキー君がMSにやって来た。
疑心暗鬼のまま初めて顔を合わせたが、一目ですぐに不安は消えた。
さすがに気さくなワトソン君の親友だけあって、本当に人の良さそうな奴だった。
がっちりしてるのか、いや小太りなのか…。とにかく何故か安心した。
「いやぁここで遭難したお陰でね、相当ダイエットになったんですよー、先生」
人なつっこくて、初対面の俺にも友好的で…。まるで…ジョーと会った時みたいだ。
「全くっ全然変わってないって!そうねぇ痩せたのは髪の毛だけじゃな〜い?」
ワトソン君の容赦ないツッコミ。しかもオカマ口調…。
「そんなぁ、どうしましょう。嫁入り前ですのに」
至ってハイテンションな二人。
日常的にこんな遣り取りを聞いていて、何で3人も体調を崩したのか。
俺は不思議に思った。
…いや、この明るい性格のお陰で、二人は元気でいられたのだろう。
ケレンスキー君は、リーダーからの伝言を伝えに来ていた。
全員で彼等の宇宙船に集まるようにとの事だった。
3人のクルーは大分回復したが、まだ本調子ではない。
だが地球に還る準備には彼等の協力が必要らしい。
宇宙服を着込み、彼等と一緒に移動する。火星の乾いた土を踏みしめながら、歩く。
俺はここに来てから初めて、外からMSを見た。
着陸パッドは激しく損傷していた。しかし本体はほとんど無事だった。
火星の重力は小さい。
メグの高い技術をもって不時着に成功したのは、そのせいでもあるのだろう。
比較的近い場所に、彼等の宇宙船はあった。
入口に案内され、エアロックに入る。
そこで気圧を調整する数分間…。待ち遠しい。胸が高鳴る。
…宇宙服を脱ぐ。
…この奥に、彼女が居る。20日以上振りだろうか。やっと…会える…。
しかし胸の内では、会える事への期待と同時に、緊張が渦巻いていた。
メグとの関係は、以前と同じではない。
俺は、自分の気持ちを彼女に打ち明けてしまったのだ。
それに、リーダーの事。
メグは、もう長期にわたって彼と一緒に居る。
ずっと彼女を独り占めしていたいのに…。これは俺の身勝手な感情に過ぎないのだが。
あの人の、あまりに素晴らしすぎる経歴、身分、そして人柄…。俺がそれに及ぶ事は、到底出来ない。
彼がもしメグを気に入ってしまったら、絶対勝ち目は無い…。