彼女1
「…これが胃ですね。切開すると入口と出口に弁が付いているのが分かります。そして…」
と、このような見学の後、ジョーをはじめ多くの学生が食欲不振を訴えた。
俺もそうなのだが、俺の場合は、食欲不振は見学の前からだった。
言い様の無い初めての感情に、悩まされていた。
とりあえず展望室へ行き、地球を眺める。午前1時。誰も居ない。
気持ちを整理する。一体俺はどうしたんだ。あの人に惚れてしまったのか?
相手は手の届かない大人の女性だ。
SSPになるには訓練校に4年通うはず。どう考えても、俺より年上なのは間違いない。
確かにホワイトさんは綺麗だ。でもずば抜けて美しいってわけでもない。
しかし何か引っ掛かった。
厳しい訓練に耐えてSSPになった彼女。
彼女がずっと強く生きてきた人なのは確かだ。
なのにあの瞬間、何で守ってあげたいとか思ってしまったんだ?俺の助けなんて必要ない強い人だって、分かってるのに…。
「…結局、ただの一目惚れって事じゃん?目を覚まさないとっ!」
誰も居ないのを良い事に、自分に思いきり喝を入れた。
「そんなに思いつめてどうしたの?」
今の聞かれた?!顔が熱くなるのを感じつつ、恐る恐る振り返る。
…これって最悪だって!
事もあろうに、ホワイトさん本人だったのだ。
「何故…貴方が…ここに?」
呂律が回らないながらも、やっとの思いで声を出した。
「何故って…いるから」
…確かにこう答えるしかないだろうけどさ。
「昨日図書館で会った人ね。あの時はありがとう」
「…い、いえ…」
もう緊張のあまり、倒れそうだ。
「で。一目惚れしたって?誰に?私?一度言われてみたいわぁ」
うわ…やっぱり聞かれてたか…!
弾けるような笑顔で俺を見る彼女。カワイイけど、俺はそれどころじゃない。
“そうなんです、貴方なんです”…なんて言えるか絶対っ。
「一目惚れから始まっても、その人の全てを受け入れられるようになって、本当に愛に変わる事もあるよ。ちゃんと確かめてみなよ?」
相手に励まされてしまった。
手の届きそうにない女性を相手に、俺は逃げ腰だったようだ。
もしかしたら…この気持ちは案外本物かもしれないんだ。
「ありがとう。そうします」
彼女の目を見て、そう言えた。不思議なくらいに、今俺は落ち着いていた。