告白1
そこは薄暗い部屋で、聞こえるのは誰かがすすり泣く声だけだった。
「栄養失調って…どうしてですか…?」
意識が徐々に戻るにつれ、その声がメグのものだという事は分かった。
「宇宙旅行の時は、栄養は通常よりずっと多く必要になるでしょう?体調は崩しやすくなるし。カロリーが足りていても、ビタミン等は不足してくるんです」
もう一人誰か居る。一体誰…?
しかし、まだ目は霞み、暗くてよく分からない。でも声は、男性の声だ。
「彼は貴方の病気を治すために、貴方が十分に栄養を摂る事を優先していたのでしょう」
それっきり、暫く静寂が続いた。またメグの泣く声だけになった。
それにしても、この男は誰なんだ?ここはどこ?
ゆっくりと頭を回転させる。
まずここは、MSのコクピットみたいだが…。
どうしてメグ以外の人がMSに居るんだ…?
…そうだ。俺達は、火星に墜落したんだった。
最後に俺が見たのは…。操縦席から投げ出されるメグの姿だった。
そして受け止めようとして…。ここで記憶が途切れている。
メグも無事だったんだな…良かった…。二人とも、命は取り留めたんだ…。
…という事は、やはりここは火星だ。この男は…火星人??英語を話してるけど。
…いや、火星は何度も調査されているが、火星人は居ないはず。だけど…。
そっと目を開けて見ると、彼の横顔が視界に入った。
さっきより目が慣れてきたのだろう、見えるようになった彼の不思議な姿にドキッとした。
髪は銀髪。淡いグリーンの瞳。…対照的に、真っ黒な肌。こんな人種の人は、地球には居ない。
やっぱり宇宙人なんだ…。
きっと彼等が助けてくれたんだろうけど…、やはりどこか恐怖を禁じ得なかった。
暫しの沈黙を破り、彼が立ち上がってこう言った。
「何度も言うけど、彼の命に別状は無いんです。彼も医学に詳しいんだから、その辺りは最善を尽くしていたはず。…だから貴方も、気にしないで少しは睡眠を取ったらどうですか。2日も経つのに、貴方の身体がもたないよ?」
「…分かりました。ありがとう…」
ドアの音がした。彼は出ていったようだ。
メグは俺の事を心配して、2日も眠れずにいるのか…。
確かに、彼の言った事は本当だ。
俺は、自分の健康を犠牲にしても、メグを元気にしてあげたかったんだ。
でも最後まで言わないつもりだったのに…。
メグはいつも、自分を犠牲にしてでも人の命を守ろうとした。
それは、SSPになる時に相当の覚悟をしたに違いなかった。
でも、俺はそうではない。
俺にとって“犠牲”は、犠牲ではなかった。