絶体絶命5
「私達は、彼等の訴えを真摯に受けとめるべきだと思う」
今回のテロには、殺意は無かった。
MSは破壊するが、住民には避難する機会を与えようとして、彼等はミサイルがMSに到達する前に自首したのだと言う。
「誉められた事ではない。だけど私は、彼等が人々の命は助けようとしてくれた事には、感謝してるのよ」
メグはそう言った。
自分が被害に遭いながら、それでも相手を思いやれる…その心の広さに、俺は大きな感動を覚えた。
メグは、話しながらずっとモニターを見つめていた。
MSは、このままのコースで行けば、火星を周回する体勢に入る。
その間に小型船で火星に降りて、燃料を調達しなければならない。
俺は宇宙服を着ると、ポートに向かおうとした…その時。
メグが短い悲鳴を上げた。
「ワタ…ル、どう…しよう」
メグは真っ青な顔をしていた。
「落ち着けよ、どうしたんだ?」
「急にコースが変わったの、大気圏に入ってしまう!」
「という事は…」
そこまで言って、俺は言葉を飲んだ。
口にするには…あまりにも恐ろし過ぎる言葉だった。
―墜落してるという事だ―
原因はよく分からない。
速度が予定より落ちたのか。
宇宙空間で、瞬間的に強い電磁波でも発生したのかもしれない。
じっと俯いていたメグが、顔を上げた。
「ワタル、私が何とかする。一番後ろがまだ安全だから、早く行って!急いで!!」
「待てメグ!落ち着け!!自分の命を犠牲にする事より、二人で生きる事を考えろよ!」
彼女はいっぱいに涙を浮かべて、俺を見つめた。
初めて涙を見せた、あの時と同じように。
あの時、俺は確かに心に決めた。独りにさせない、きっと守ってやる、と。
俺は精一杯に冷静を保つ事を心に決めた。
「パラシュートが有るんじゃないのか?」
「有るけど…頭部カプセルを切り離して着陸するための物よ?」
「もし無事に降りられても、再び離陸できなければ地球には還れないんだ。パラシュートを開いて、噴射装置を下に向けて降りられたら、また打ち上げが出来るかもしれない」
「…そうね…分かった」
メグは落ち着きを取り戻すと、必死で操作を続けた。
昇降舵を動かしたのか、機首が上がってきた。
そこでメグはボタンを押した。
同時にブワッと音がした。パラシュートが開いたのだ。大分減速してきた。
しかしMS全体を支えるには、パラシュートは小さすぎる。
どんどん急降下しているのが分かる。きっと…激突して…。きっと…
―絶体絶命!