絶体絶命4
「あのねワタル。MSは元々、国境を超えたユートピアとして造られたでしょう。でも…実際は違っていたのよ」
入場資格は、公平には与えられない。
資格を得るために要る物…それは結局、お金だった。
豊かだと言われる日本でも、俺は何年も働いてお金を作る必要があった。
だったら貧しい国の人々は、どうしたらユートピアに入れるのか。
MSは、世界中の人が未来のために力を合わせて、科学や医学の研究を行うための場のはず。
しかし、豊かな人々しか集まる事は無い。
そしてその成果に与る事が出来るのも、豊かな国だけ。
今回のテロは、その不公平さが生んだ物だったのだ。
地上では、争いが繰り返されている。互いが歩み寄る事が無いからだ。
より豊かな国が、自らの富を武力に変えて、相手をねじ伏せる。
貧しくて弱い人々は、傷つき続ける。
その苦しみを訴えるための手段…それはテロしか無かった。
建物を破壊してみたり…とにかく世の中に知らせようとした。
追い詰められた自分達を守るための、SOS。
それでも彼等の叫びが聴かれる事は無く…。
重なる苦しみは、憎しみへと変わっていった。
自らを愛する事さえ出来ない程の、強い憎しみに。
訴えても聴かれない。ならば復讐するしかない。そのために自分の命を捨てても…。
テロの目的は、訴えから復讐へと、変化してしまったのだ。
早い段階で彼等に耳を傾けなかったから、今地上で起こるテロでは、無駄に沢山の血が流されているのだと、メグは言う。
「テロは、許される事ではない。どんな理由があっても、罪の無い人々を傷つけてはいけないと思う。だけど暴力と憎しみで応酬しては、絶対に終わらせる事は出来ない。エスカレートさせるだけなのよ」
現在の地上では、人々の間にある溝を埋める事は出来ない。
せめて国境の無い宇宙では、人々が仲良く協力し合い、そしていつか、地上でも全ての人が等しく平和と繁栄を享受できるように…。そのために造られたのがMSなのだ。
MSは、どの国の持ち物でもない。
しかし現実は、豊かな国々が占領しているようなものだった。
未来の希望まで、奪わないでほしい…。
MSに向けられたテロは、そんなメッセージだったのだ。