生きたい6
でも他に方法は無かった。
「メグ…アイデアがあるんだけど…」
俺はトイレを出て、メグに話しかけた。
メグはまた操縦席に座って計算を続けていた。
病気を治すまでは、割り切って休んでいて欲しいのに。
気持ちを切り換える事の出来ないメグ。俺を地球に還すために…。
本当に俺は無力だ。俺がメグを助けたいのに、それさえも、メグの助けが要るなんて。
自信の無いまま、俺はアイデアを彼女に打ち明けた。
メグは、じっと聴いていてくれた。
話が終わると、俺は緊張しながらメグの横顔を見た。
すると…
「ワタル…ありがとう」
メグは俺を真っ直ぐに見つめ返して、そう言った。
また俺はメグの瞳にドキッとする。
メグは、泣いていた。
「希望が見えてきたよ…、本当にありがとう!私、頑張るね…!」
次の瞬間…
…!!
メグは、俺の肩に顔をうずめていた。
やめてくれ〜!やっと落ち着きを取り戻したのに。
顔が熱くなる。また全身から汗が噴き出してきた。
しかし焦る気持ちとは反対に、俺はメグの背中に手を回していた。
彼女はどんなに思いつめていたのか。
その辛さを一気に押し流すかのように…メグは泣き続けた。
やがて…涙を掌でぐっと拭き取ると、メグは晴れやかな笑顔を見せた。
「もう少しで計算終わりそうなの、頑張るね」
メグは計算用紙に向き直ると、また真剣な眼差しに戻った。
だけど、口元には微笑みを浮かべたままで。
俺は胸が一杯になった。ただひたすらに、嬉しかった…。
俺はトイレに戻って、また汗を拭いた。
全くメグは…。俺は苦笑した。
メグの仕種、メグの言葉―何もかもが、俺の中にますます愛しい感情を募らせてしまう。
そして…愛しい人の笑顔が、俺に限りないパワーをくれる。
その笑顔のためなら、俺は何だって出来る!
絶対に火星に着くまで4ヶ月、一緒に生き延びてやる。
君を死なせたりなんかしない。いや、病気も治して元気にしてみせる。
そして、その後も。彼女は必ず元気な笑顔で、いつか地球に降り立つんだ。
君の笑顔のためならば、全てを犠牲にしてもいい…!
まずは、食料をチェックするか。
一応250日分…8ヶ月分は有るって言ってたけど。
それで本当に必要な栄養を摂る事は出来るのだろうか。
メグの病気を治すには、それなりの物を食べてしっかり栄養をつけてもらわないとな。
俺は立ち上がった。自分の中に、力が漲っているのを感じた。
さあ、やるか!