生きたい4
出会った時からずっと、彼女の瞳は俺を堪らない気持ちにさせた。
守ってあげたい…。
漠然としたこの気持ち。
しかしそれは、いつしか成長していた。
今、気づいた。
メグの事を『家族』だと思うくらい…いや、本当に家族になって欲しい…とか本気で思っている自分に…。
最近、俺の中で募っていた気持ち。溢れそうな思い。
それが何だったのか、今はっきり判った。
俺は、本気で愛してしまったんだ…。笑った君、泣いた君、怒った君、照れた君…、君の、全てを。
俺の心に一つの決心が生まれた。
こんな所で彼女を死なせはしない、と。
どんな犠牲を払っても、絶対彼女を地球に還す、と…。
彼女に幸せになって欲しい。
彼女の命が、他の命と引き換えに救われたものであっても…それでも、幸せになる権利は有る!他の全ての人間と同じように。
お父さんはメグに幸せになって欲しくて、彼女を助けたんだよ?今度こそ彼女が自分の幸せを掴むために…、俺は何でもする。
地球に還るには、火星に着かなければいけない。
でないと、エネルギーと食料が無くなって死ぬ事になる。
そして死ぬまで…いや死んでも宇宙をさまよい続ける事になってしまう!
だが火星に着けば、大気に拡散された明るい太陽光が、MSの太陽電池のエネルギーを満たしてくれる。
それに、これまでに何機も火星に着陸している無人探査機の燃料が、少し残っているはずだから、それで地球に引き返す事が出来る!
火星に向かうには…。火星の現在位置では、到着までに4ヶ月かかる。
火星に着くためには、2つの条件がある。
火星に進路を合わせる事、そして俺達が4ヶ月生き延びる事。
進路については、メグが、以前高熱の中で何日間も計算していた。
ここから火星に向かうコースは、メグなら分かるはずだ。
後はそれをどのように実行に移すかだ…。
「ちょっとワタル、大丈夫?」
ドアの外からメグの声がした。気がつくとトイレに入ってから、30分過ぎていた。
「大丈夫。メグはトイレ使う?替わろうか?」
俺はドアに向かって声をかけた。
「ううん、お腹壊したのかと思っただけだから」
やっぱりメグは優しいな。
でも、俺はもうメグに近づくわけにいかないんだ…!だって…。
「ありがとう。トイレ使う時は言って。その時は替わる。それ以外は俺、ここに住む事にするから」
「トイレに住む?!ちょっと何言ってるの?何で?」
理由を聞かれるのは当然だ。でも言い訳に困る。
俺はとりあえず、ドアを開けて顔を出した。
「…」
メグの顔を見ると、俺は何も言えぬまま俯いてしまった。
恥ずかしい。意識してしまうと、もう駄目だ…。
本気で好きになるって、こんなに苦しい事だったんだ。
愛してるから近づきたい…自分のものにしたい…。
でも愛してるから大事だ…傷つけたくない…。
だから。お願いだから。独りにしてくれ…。
君の寝顔を見る度に、何かが爆発しそうだった。
それが何なのか、俺は気づいてしまったんだ。
君の前で自分を抑えるのってこんなに大変で。こんなに切なくて。