生きたい3
…彼女はそれを信じた。
「きっとね?絶対ね?」
振り返り振り返り、メグは歩きだした。
…
彼女が墜落機を出た直後。
「鋭い閃光に目を瞑った瞬間、私は吹き飛ばされた…」
何mも飛ばされて柔らかな草叢に舞い降りた彼女は、すぐに振り返った。
「そこにはもう…飛行機は…無かった…」
茫然とする彼女の所に、爆発の残骸が…一つ、また一つと落ちてきた。
降ってくる灰の中、たった一人立ち尽くす彼女は、悟った。この現実の意味する事を…。
彼女は覚えていた。あの飛行機は満員だった事を。その何百もの命が、今…。
そして彼女は知っていた。
本当ならお父さんは、その一人にならずに済むはずだった事を。
お父さんが座った席のすぐ側に、非常口が有ったのだ。
お父さんは、逃げる事より彼女を守る事を選んだために…。
「その時から、私の命は私の物ではないのよ。本当は、なくなってたはずの命なのだから」
彼女は決意していた。
自分の命は、他の命を守るために有るのだと。
もう二度とあの悲劇を起こさないために、自分の命を使うと。
その後間もなく、宇宙旅行が一般化されると発表された。
彼女はその事にかなりの不安を覚えたそうだ。
宇宙航行は、飛行機よりも更に事故率が高かったからだ。
その時彼女は、自分の進路を決めたという。
施設に預けられ、頼れる身寄りがいなくても、彼女は決意を曲げなかった。優秀な成績を修め、奨学金を獲得してSSPへの道を進んだのだ。
初めて知ったメグの過去。
メグと出会ったあの日、彼女の瞳に感じたのは、彼女の暗く重い背景だったのかもしれない。
「あの時飛行機にいた皆、一人一人に家族がいたのよ。失われた命の数の、その何倍もの人が辛く悲しい思いをするのよ?再びそんな事が起こるくらいなら、家族の無い私が犠牲になる方がずっといいわ…」
「言うなよ!!」
俺は堪らず叫んだ。
「メグが命を賭けて人々を守るのは立派だ。でも俺は、メグを失ったら辛くて悲しいよ!メグは俺にとって家族みたいに大事なんだから!」
…
暫しの沈黙。メグがその大きな瞳で俺を見つめる。
―言っちゃった―
俺は今更のように恥ずかしくなって、目を逸らした。
「…ありがとう」
メグは微笑みを浮かべた。
「本当にありがとう」
真っ直ぐな瞳でそう言われると、ますます顔が熱くなる。
「う、うん」
何とか返事をすると、俺は動揺を隠すように、トイレに駆け込んだ。
メグは、俺の言葉の深意には気づいてないだろう。
でも俺も、自分の気持ちを今初めて確信したんだ。