生きたい2
しかし前日と比べて熱は大分ひいた。少しずつだが快方に向かっているようだ。
「…ん…あれ、ワタル?私…え?」
目を覚まして、無邪気に俺を見つめるメグ。
寝起きって何でこう…可愛いんだろう。…抱き締めたい。もう本気で俺…。
「倒れたの。何度も言うけど病気なんだから、ちゃんと寝てなきゃ駄目だろ!」
俺は強い口調で言った。
もう放っておけない。溢れ出しそうな、それを俺は必死で抑えている。
くすっ。突然彼女が吹き出した。何だか久しぶりに見たような笑顔。
「な何だよ、俺が真剣に心配してるのに笑うなんて!」
「だってだって、ワタルったらお父さんみたいなんだもん。心配症だなぁ」
え…お父さん?メグはずっと俺を子供だって言ってたのに。
「…私は物心もつかないうちに母を亡くしてね、父は、男手一つで私を育ててくれたの…」
メグは遠くを見ながら、語りだした。
一緒に買い出しドライブに行っていた日常。
仕事が終わってから家事をこなし、忙しい中でもいつもメグに向けてくれていた笑顔…。
それは皆、メグの記憶の中にしか残らぬ宝物だった。
彼女が12歳の時、今から13年前の事…。
その時幼かった俺もTVで見た大事件の映像は、今でもはっきりと頭に残っている。
それは墜落した飛行機の炎上する姿。
その映像はショッキングなものだったが、俺にとってそれよりショックだったのは…奇跡的に一人生き残った少女が、無表情のまま…止めどなく流す涙だった。
その少女…それはメグだったのだ。
「気がついたら、機内は煙でいっぱいだった…」
真っ黒な煙は一緒にして辺りを覆った。
何も見えない。恐怖で足が竦む。…煙を吸って気が遠くなりかけたその時。
離れた座席に座っていたお父さんが、メグのところに現れたのだ。
「『メグ急げ!爆発するぞ!』何度も呼び掛ける父の声で、私はどうにか気を取り戻した。父は…骨折してたの。立つ事も出来ず、血まみれの腕で這って…私を助けに来たの…」
しかし重傷を負っていたお父さんは、非常口を目の前に力尽きて動けなくなってしまった…。
「『出口はすぐそこだ。先に行きなさい!』と父は言った…。でも…出来なかった…」
側に居ると言って聴かない彼女に、お父さんはこう言った。
「…後から行くから…すぐ会えるよ…。だから…先に行きなさい」