生きたい1
あれから1週間と少し過ぎただろうか。
メグの体調は良くならなかった。
まだ高熱が続いている。それなのに彼女は、休もうとしなかった。
ずっと操縦席に座ったまま、その目がモニターから、その手が計算用紙とペンから離れる事は無かった。彼女がそうするのには理由があった。
月面基地の人々をミサイルから守る任務の時、メグはMSのコースをある場所に向けてセットしていたのだ。
そこに当てが有った訳ではない。その途中でミサイルを受けるはずだったのだから。
「それでも…こうするしかなかったのよ…」
メグは力無い声で、そう言った。
「どうせ死ぬのだから関係無いって…頭では分かっていても…どこか分からない所へ進路を取るなんて、怖くて…」
地球には還れない。
ならば、地球に最も似ていると言われる星へ…。彼女が選んだのは、火星だった。
しかし爆風に流された事と、予定以上のロケット噴射でコースが狂ってしまった。メグはそれを何とかしようと必死になっていたのだ。
気持ちは解る。それにコースの複雑な計算を俺が代わる事も出来ない。でも…。
俺はメグを治すために医学の勉強を続けながら、メグの後ろ姿を見つめた。
身体を治すのを先にしてほしいんだけど…。
今まで何度もそう言った。
なのにメグは聴かないのだ。かと言ってメグをベッドに縛りつける事は出来ないし…。
その時ドサッと音がした。
メグはシートに座ったまま、コントロールパネルに倒れこんでしまったのだ。
だからちゃんと横になっていてほしいのに…。俺は再び彼女をベッドに運んだ。
「大丈夫だから。俺も頑張るから…。もっと肩の力抜いてよ…メグ」
眠っている彼女に、独り言のように呟いた。
その日一日、メグは一度も目を覚まさなかった。
しかし、眠っていても緊張状態が続いているのは明らかだった。
額に汗を浮かべ、虚空に手を伸ばす。
夢の中でもコントロールレバーを握り、何とかMSの進路を変えようとあがいているのだろうか…。
「ワタル…」
切なく俺を呼ぶ声。
夢で何を話しているのだろう。
心のどこかで、俺を頼ってくれている…。どうしようもなく愛しい。
俺は眠らずに、彼女の傍で看病を続けた。
まだ油断は出来ない。
仮にもここは宇宙だ。
本来なら、風邪をひいただけでも宇宙飛行は許されない。
それだけ身体に負担がかかる事なのだ。本当に、安静にしてもらわないといけない。