大宇宙より1
今までの不安と緊張が、涙に洗い流されたのだろう…。メグは安らかな表情で眠りについた。
それを見ていると、俺の中で張り詰めていたものも、解けていくのを感じた。
良かった…。追い掛けてきて、本当に良かった…。
と思った時、さっきの記憶が一気に蘇ってきた。
大義名分があったとはいえ、俺は見てしまったんだ、メグの…。
目の前の可愛すぎる寝顔が、俺の鼓動を更に速くする。
飛行服の硬く厚い繊維の下に隠されていた…滑らかな曲線を描く躰のライン。
華奢な両肩、透き通るような白い肌。
吸い付くように柔らかなその感触が、まだ掌に残っている。
いずれも男の俺には無いものばかりだ…。
いくら手当てだと言ったって…その場は割り切れても、結局無理だ。だって好きな人なんだから。
やっぱりメグの事だけは女として見てしまうよ…。
…
…ん?
気配を感じて目を開けると、天井が物凄い勢いで迫ってきていた。
「うわ〜っ!!」
頭をぶつける寸前に、何とか天井に手をついた。
「何?何だよ?!」
裏返った声に寝惚け眼。思いきりカッコ悪い。
振り返って下を見ると、メグが呆れた顔で俺を見上げていた。
「何度起こしたら起きるのよ」
冷静に怒っているメグ。かなり恐い。
どうやら俺は、いつの間にか眠っていたらしい。
で、あまりに起きないので、メグに投げ飛ばされたらしい。
無重力だから容易い事なのだが…、全くこの人は、怪我人のクセにバイタリティ全開だ。
壁を蹴りながら、何とか床まで下りてきた俺は、メグの座っている操縦席の側に立った。
大きなフロントウィンドーの向こうには、真っ暗な闇の世界が果てしなく広がっている。
俺は溜め息をついた。絶望的になる。今ジタバタしても同じだ。どっと疲れが出てきた。
そりゃあ疲れてるさ。
だってMSに戻ってから、緊張状態の中で必死に頭使って、それから頭打って気絶して、その後はメグの傷の手当てしてたんだ。俺も大変だったんだから…。
「分かってると思うけど、俺疲れてるんだよ。もう少し寝かせてくれよ」
「何言ってるの!私だって…」
それは、今まで見た中で一番恐い顔だった。
一瞬だったが、怒りを滲ませた瞳で俺を見ていた。
でもそこでメグは口を噤んだ。
「…何でもない。食べ物持ってこよう。お腹空いたでしょう」
そう言って、操縦席を立って俺に微笑みかけた。
…でも明らかに作り笑いだ。
―何か文句があるならはっきり言えよ!―
そう言いたい気持ちをぐっと堪えた。
何だろう。苛々する。彼女も苛々してる。