旅立ち3
地球の人々を助けるため闘い続けた彼女に、自分を助ける余裕は無かったんだ。
宇宙には摩擦力が無いので、慣性の法則で物体は永久に動き続ける。
一瞬ロケットを噴射するだけで、ずっと進み続ける事ができるのだ。
しかし、MSを噴射させたまま、メグは気を失ってしまった。
その間にMSはどんどん加速し…そのまま、燃料は尽きてしまったのだ。
もう、還れる見込みは無い。燃料をチャージできない限り。
確かに、無傷というわけには行かなかった。
でも俺達は死ぬ気でいたのだから、それを思うと、物凄いスピードで地球から離れていくこの現実も、冷静に受けとめられた。
宇宙の真ん中で二人きりになってしまったのに、恐怖心が湧かないのは、相手がメグだからかもしれない。
彼女と、失いかけた彼女と、今こうして生きて側に居られる…それだけで充分だった。
今、メグがうっすらと目を開けた。
「おはよう、メグ」
「ワタ…ル?」
今までに見た事の無い、幼い表情。俺を見上げる可愛い瞳。
…だが、それはホントに一瞬だった。
メグはガバッと起き上がった。
「駄目だよ寝てないと!」
俺の制止も振りきってメグは俺を睨んだ。
「何でワタルがここにいるの?!」
…やっぱりこう答えるしかない。
「…いるから」
しかしメグは、自分も以前にそう言った事なんて頭に無いらしい。
メグの怒りはいきなり頂点に達してしまった。
「私がどんな気持ちで、貴方をここから追い出したと思ってるの?!」
メグは真っ赤な顔して言った。
「そんな事知らないよ。ただ俺は、メグにあのまま会えなくなるのが許せなかったんだ」
「ワタル分かってるの?死ぬとこだったのよ?!これからどうなるかも判らないのに…」
彼女の声がだんだん小さくなる。
「本当に向こう見ずなんだから…」
彼女の顔がだんだん俯く。
「本当に子供なんだから…!」
彼女の目からポロポロと雫が溢れ出した。
それが次々と…重力を失った空間を舞う。まるで、真珠のように美しく輝きながら。
初めて彼女が見せた涙だった。
もう、彼女は何も言わなかった。
しかしその沈黙は、どんな言葉よりも多くを語っていた。
独りぼっちでどんなに怖かったことだろう…。
やっぱり誰だって生きていたいのに、メグはたった独りで死と向かい合っていたんだ。
俺はそっと肩を抱いた。
もう、独りにさせないから…。きっと守ってあげるから…。
想いが俺を貫いた。