旅立ち2
俺は、冷静でいるように強く自分に言い聴かせると、コクピットを後にした。
このままではこの先どうなるか、判らない。でも今はこれ以上出来る事は無い。
未来を案ずるより、現在に目を向けなければならない。
俺は大学にある治療器具と薬品、あと医学に関わる本を集めて、コクピットに持ち込んだ。
まず額の傷。
頭部の傷は出血が多い。
力を入れたらまた出血するだろう。消毒した後、きつく包帯を巻く。
次に…、カラダの傷は…。こういう事、医者になれば何て事なくできるのかな。
…ファスナーを下ろす手が震える。
そんなヤラシイつもりなんて無いのに!だけど意識してる時点で既に…。
自己嫌悪に陥りつつ、何とか制服を脱がせた。
…痛々しい。無数のかすり傷と痣…。背中のほとんど全面が赤紫に染まっている。
俺の邪心は、いつしか完全に消えていた。
全身の傷を消毒液で拭き、手当てした後、清潔な柔らかい寝巻きを纏わせると、腫れた足首を固定する作業に入った。
捻挫はしているようだ。
レントゲン撮らなければ判らないが、骨にヒビも入ってるかもしれない。
自分でも驚くほど、迅速に手当てが進んだ。
昨日まで3日間受けていた補習が、間違いなく効果を発揮していた。
宇宙医学にしか興味が無かったせいで、俺は基礎的な応急手当の知識を覚えられずにいた。看護師がする仕事だし…と思っていて。
でも補習の時には、本当に集中して覚える事ができた。
命を守る事の大切さに気づかせてくれたメグのお陰だった。
しかし今、彼女はその事を身をもって教えていた。
メグは、ミサイルに接触するまでずっと、エンジンに点火しようとしていたんだ。
そしてミサイルが至近距離で爆発した衝撃で、メグはあちこちで頭を打ち、体を打ち…。
だが爆風に流されたMSが、地球に墜ちる軌道を進んでいる事に気づいた彼女は、体を起こし、そのまま13時間闘い続けた。
巨大なMSが、地球の大気で燃え尽きるはずがない。
人々のいる場所、まして街中に墜ちたら…。
メグは朦朧とした意識の中、エネルギーが戻るまでずっと、点火操作を繰り返していたのだ。
やがてエネルギーが戻り点火に成功すると、MSが地球から離れるのを確認して、倒れ込み気を失った…。
俺はMSと月面基地の人々を守る事までは考えたけど、その後の事は考えていなかった。
やっぱり、メグは凄い。命を賭けて、人々を守り抜いたんだ…。
本当に、自分の命より、他の人々の命を守る事を考えて…。