旅立ち1
目が覚めた時、俺は床に投げ出されていた。
…無事だったんだ…?まだ現実なのかはっきりしない。
時計を見る。午後4時過ぎ。あれから13時間…。
前と全く同じ世界。本当は何も起こっていないのでは…?
夢心地のまま、起き上がって動力エネルギーを元に戻す。
すると、突然強い揺れが襲った。
立っていられない程の激しい揺れ。バランスを崩した俺は、壁に叩きつけられた。
うっ…痛い。背中が疼く。
暫し無言で耐えた後、やっとの事で立ち上がる。
…?体が軽い?フワッと体が宙に浮いた。
ここは宇宙の真ん中なのだ…。体で思い知る。
ずっとMSが自転して作り出していた重力が、たった今、無くなったんだ…。
はっきりと現実に戻った思考を、必死で巡らせる。
メグは?!彼女は、大丈夫だろうか…。
通路を蹴り、手で壁を押しながら前に進む。
なかなか思い通りに動かない体。水の中で走っているみたいな。もどかしい。
何とかコクピットの扉まで辿りついた。
短い距離なのに、10分以上はかかってしまった。
唾を呑み込んで、一息ついてから、ドアを開けた。
その光景に、凍りついた…。一瞬なのに限りなく長い時間。
メグが倒れている。
額から流れた血で、紅く染まった頬。制服にもあちこちに血が滲んでいる。
俺は、震える腕でメグを抱えた。
良かった…生きてる…。腕に伝わる体温に少しほっとする。
側にある仮眠ベッドに運ぶ。
長椅子の上に寝袋が固定された物だ。これなら無重力でも落ち着いて休める。
ベッドに寝かせてから、手当てに必要な物を取りに立とうとしたその時、彼女の唇が動いた。
「…早く…ロケットを…」
それはうわ言だった。
やっぱり、最後の最後まで、ロケットに点火させようとしていたんだ…
俺はコントロールパネルに目を向けた。
メグはそこで頭を打ったのだろう、所々に紅いものが付いている…。
ふと目がスピードメーターのところで留まった。
およそ時速3万kmを指している。もしや…今MSは動いているのか…?
レーダーモニターに目を移す。
すると月の近くにあるはずのMSは、地球の大気圏に近づいていた。
しかし現時点では、地球から離れる方向に進んでいる…。
状況を把握できないまま、とりあえず逆噴射する事にした。
元に戻るには、これ以上進むわけにはいかない。
レバーをいっぱいに手前に引いた。
…何も反応が無い!
MSは前に進み続けている。地球に、背を向けたまま…。