カウントダウン1
時間が止まったかのようだった。
徐々に分別が戻るにつれ、俺の頭は怒りでいっぱいになった。
あんなに言われて、それでもメグを追い掛ける気力など無かった。
俺はメグが行った方向の反対に向かって、走りだした。シャトルに乗り込むために、ポートへ。
出てくさ、MSから。これで満足だろ?!
初めからMSを出るのは決まってる事なのに、何故わざわざ傷つけるような事言うんだよ?
…
―本当にいいのか?―
もう一人の自分が、時々問いかけてくる。何故…?
シャトルに乗り込む。もうすぐ深夜12時だ。
…どう考えても俺は悪くない。一方的に売られた喧嘩じゃないか。
シャトルの中で、チェックしているSSPに名前を言って、IDカードを見せる。
俺が入るとすぐに、ハッチが堅く閉じられた。俺が最後だったようだ。
「只今より月面基地に向かいます」
放送が聞こえた。10分程で到着するはずだ。
ロケットエンジンの点火音。直後には轟音と共に、外の闇の中に放り出されていた。
どんどんMSが小さくなっていく。巨大なMSが、この時には何故か頼りなく見えた。
ジョーの言ってた悪い予感が、一面の暗雲のように立ち籠める。MSに何かあったとしたら…。
そこに、残してきてしまったのだと、今更ながらに実感した。
彼女はきっと悩んでいたはず。
だから会いに行ったのに、何で最後まで怒鳴ったりせずに、冷静に話を聴いてあげなかったのだろう。
自分は悪くないと、今まで言い聞かせていた俺の良心は、もはや自分を責める事しかしなくなっていた。
「月面基地に到着」
この放送を聞いた時、俺に迷いは無かった。
真っ直ぐ、シャトルのコクピットに向かって走っていた。
「俺をすぐにMSに帰らせて下さい」
ちょうど操縦を終えて出てきた人に、そう言っていた。
SSP制服を身につけた、自分と同じくらいの体格の男の人だった。
「無理です」
彼がきっぱりとした口調でそう答えた。
自分が無理を言ってるのはよく分かってる。でも…。
「どうしても…お願いします!解ってくれるまで、ここを動きません!」
すると彼は、サングラスの奥からじっと俺を見ると、突然荒々しく腕を掴み、俺をシャトルの外へ引きずり出した。
抵抗しても歯が立たない。動けば腕が捩れる。彼の訓練された強さに、圧倒される。