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ハンカチの木  作者: Gardenia
番外編1
61/67

S3 保坂の引越し3

佐知子が連れてきた二人は、引越し会社で働いているということだ。

「拝見してよろしいですか?」と言って保坂の部屋をざっと見た3人は、てきぱきとメモをとりながら相談を始めた。

しばらくしてダンボール箱を運び込む。


「手順を説明させてください」と言うので、ダイニングテーブルをミーティングテーブル代わりにして椅子を勧めた。

亜佐美の家の改造が終わったらすぐに荷物を移動するように打ち合わせる。

それまでに亜佐美は保坂の下着などの衣類と貴重品を梱包するように言われただけで、

あとは彼らが全部作業するからと言われた。

今は冷蔵庫の食品もクローゼットに入っているスーツ類もそれ専用のキャリーケースがあるので

亜佐美が思うより迅速に引っ越せてしまうらしい。


洗濯機と冷蔵庫を処分するのか持って行くのか保坂と相談して連絡をすると約束し、

部屋の改造が終わる頃に微調整するということでだいたいの打ち合わせは終わった。


問題は費用である。

彼らは婚約のお祝いと引越し祝いだと言って見積もりを作ろうとしなかった。

ちょうど引越しの少ない時期で、引越し会社の社長にも事情を話し、使えるものは使ってよいと許可をもらっていると言う。


「ほんとうにそれは困りますから」と亜佐美は何度も懇願してようやく

「それではあとで見積もりを保坂さんに渡します」ということで決着がついた。


佐知子が「とりあえず明日からとりかかりましょう」と亜佐美に声をかけて、彼らは引き上げて行った。


保坂の居ない部屋に居ても仕方が無い。

亜佐美も帰ることにした。

『私のところでお夕食を作ってます。帰りに寄ってください』そう保坂にメッセージを送って、一人でマンションを出た。





家の工事が始まれば保坂のところで10日ほど過ごす。

保坂の家での食事は、おそらく冷凍食品がメインになりそうだ。

そう思った亜佐美は、短時間でできる魚の煮付けを中心にして、昼間作り置いたお惣菜で夕食を整えた。

これからはこうやって保坂の帰りを待つ生活になるんだと思うと、嬉しいような恥ずかしいような気がする。


考えてみれば、生まれた時から実家暮らしで、両親と姉が相次いで亡くなったあとは茜が居た。

この歳になってようやく一人暮らしだ。

そしてこの一人暮らしも保坂と同居することであっと言う間に終わってしまう。


茜との生活は慣れない子育てがあり別の緊張があった。

保坂との同居は明らかに茜の時にはない感情が湧くのを感じた。

少しの不安と所在のない嬉しさとが入り混じって、どう説明してよいのかわからないものだ。

両親や姉が居れば、きっと賑やかに冷やかしたり、アドバイスしてくれるのかもしれない。

誰にも言わずに一人で対応しないといけない自分の環境を思うと、少しだけ寂しさと感じた。


そんなところに保坂がやってきた。

保坂のためにガレージの扉を開け、その扉に近い場所で立っていると、保坂が車から降りてきた。

にっこりと笑いかける保坂がまぶしくて正面から見ることが出来なかった亜佐美は、保坂の鞄に手を伸ばした。


「あ~、すごく重い、この鞄」

取り繕うようにはしゃいだ声をあげた亜佐美は、そのまま鞄を持ってダイニングに移動した。

保坂はその亜佐美の後をついてダイニングに入った。


「さ、一也さん、手を洗ってきてね。お夕飯はすぐに食べられるようにしているから」

「うん。今行くけど・・・」そう言いながら保坂は亜佐美の手を取った。

そのまま引き寄せて自分の胸に亜佐美をすっぽりと入れると、柔らかく抱きついて亜佐美の肩に自分の顎を乗せた。


「ちょっとだけ亜佐美補給させて?」

「一也さん・・・」

保坂の手が亜佐美の背中を撫でている。

保坂は深く深呼吸をすると、「今日はどうだった?何かあった?」と亜佐美に聞いた。


「もう、たいへんだったの。気を遣ってしまったわ」と亜佐美はワザと大げさに言った。

保坂は亜佐美を抱く手を緩めると、「それはたいへんだったね」と言った。

「やだ、まだ何も説明してないのに」と亜佐美は頬を膨らませてみせる。

「あはは、手を洗ってきたら夕食にしよう。食べながら聞くよ」

とそう言って亜佐美を離して洗面所に行った。


保坂が洗面所に行く背中を見ながら亜佐美は少しほっとしていた。

保坂が帰ってきたことでどうにか感情の揺れをやり過ごすことができた。

今夜はもう大丈夫だろう。

ご飯とお味噌汁をテーブルに運びながら気持ちを切り替えていった。






引越しの準備の報告や客間の改造のことを打ち合わせながら食事を終えた。

保坂の出張の日から客間の改造が始まる。

その前日の夜から亜佐美は保坂のマンションに泊まることにした。

話し終えると保坂も手伝いながら食器をシンクに運び、片付けていく。

すっかり片付くと、保坂は帰るために鞄を手に取った。

亜佐美はその保坂をずっと見ていた。


「今夜も美味しかったよ。ありがとう」

そう言って亜佐美を見た保坂は、一度言葉を止めて、「やっぱり一緒に居たいな」とつぶやいた。

「亜佐美、今夜一緒に来ないか?」

「え?」

「明日の朝は、出勤の時送ってくるから」

「今夜?今から?」

「うん。用意しておいでよ。着替えと化粧道具だけ持って一緒に行こう」


亜佐美の反応が遅くて心配になった保坂は、亜佐美に近づいて手を取る。

「ほら、僕も手伝うから。着替えはどれ?」と言うと、

亜佐美は笑いながら、「一也さんが私の準備を手伝う?」と返した。

「亜佐美が一緒に来るならなんだって手伝うよ」

保坂も笑っている。


「わかったわ。一緒に行く」亜佐美は急に元気がでたようだ。

「ちょっと待ってて」と言うと、自室に駆けて行き、すぐに戻ってきた。

着替えは昼間に保坂の部屋に置いてきた。

化粧ポーチを取ってきただけだ。

二人で一緒に家中の戸締りを確かめて、保坂の車に乗り込む。

昨日のように保坂が帰った後に押し寄せてくる寂しさが無くなることに亜佐美はほっとしていた。


数分で保坂のマンションに到着した。

保坂が鍵を開けてドアを開けると、亜佐美に先に入るように促した。

亜佐美が先に入ると、保坂もすぐに身体を滑らせるように続き、ドアと閉める。

鍵をかけたかと思ったら、亜佐美は保坂に抱きすくめられた。


「昨日さ、一人で帰ってきたら、この玄関がやけに暗いんだよ。

亜佐美を連れて帰ればよかったと思ったんだ」と亜佐美の肩に顔を埋めて保坂が言った。

「私も・・・。一也さんが帰ってから、ついて行けばよかったと思っていたの」と亜佐美が言うと、保坂が両手で亜佐美の頬を挟んで亜佐美の目を見た。


「ほんとう?」

「うん、ほんとうよ」

「もう離れて居たくないな」

「うん」

ゆっくりと保坂の顔が近づいて、二人は深いキスをした。





亜佐美が気がつくと、もう朝になっていた。

良い匂いがする。

顔をゆっくり動かすと、ベッドの端に保坂が座って亜佐美の前にコーヒーマグを差し出していた。

「おはよう」

「おはようございます」

「コーヒー飲む?」

「はい、いただきます」


保坂はすっかり起きていて、もうシャワーも浴びたようだ。

保坂からボディーソープの匂いがしていた。

コーヒーを飲むために身体を起そうとして、自分が裸なのに気がついた。

「きゃっ」と言って慌ててシーツを手繰り寄せていると、

「それ飲んだら、シャワー浴びておいで」と保坂がニヤニヤしながらマグを亜佐美に渡した。

目のやり場に困りながら「はい」と言ったが、はっきりと聞こえないくらいの小さな声になってしまった。


亜佐美はコーヒーを飲みながらゆっくり昨夜のことを思い出そうとした。

玄関でキスしたあと、お風呂場にたどり着いたときにはすでに全裸だったのではなかろうか。

自分で脱いだ覚えがないということは保坂が脱がせたということだろうか。

曖昧な記憶をさまよっていると、そんな亜佐美を部屋の入り口で保坂が笑いを堪えて見ている。

「亜佐美さん、もうあまり時間がないよ。ちょっと急いだほうが良い」と呼びに来たのだ。


「わかりましたから、一也さんは出掛ける準備してくださいな」

そう言って、保坂を追い出しておいて亜佐美はベッドを抜け出した。

簡単にシャワーを浴びて、軽く化粧をする。

保坂がまとめて置いてくれたのか、昨日着ていた洋服が洗面所にある洗濯籠に突っ込んであった。

恥ずかしさで頬が赤くなるのが止められない。

マグカップを持ってキッチンに行くと、保坂が冷凍デニッシュをオーブントースターから取り出したところだった。


「よく暖まったようだね」

亜佐美の赤い顔を見ながら保坂はくすくす笑ってそう言った。


「服を洗面所に運んでいただいたようで、ありがとうございます」

「どういたしまして」そう言うと保坂はまた笑った。


食事を終えると、保坂は素早く着替えて、亜佐美と一緒に家を出た。

車で亜佐美を家に届けて、保坂は仕事に行く。

夜は仕事を終えたら、昨日同様亜佐美の家に寄ると言い残して出勤していった。







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せっかく来ていただいた皆様には誠に申し訳ないですが、

午前7時には手違いがありまして、不完全なものをUPしてしまいました。


ご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。


管理人 Gardenia



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