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ハンカチの木  作者: Gardenia
第一章
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5   会議

火曜日は会議に半日費やし、水曜日は通常業務、そして木曜日の朝に本社に向けて出発した。

到着駅には会社から迎えの車がきていた。

部長と一緒に乗り込んで本社に向かう。ほどなく田舎にはないタワービル街が見えてきた。目指す本社はこの高層ビル群の1つでしかない思うと、大会社ってたくさんあるよなと保坂は思う。保坂の勤める規模の会社はいくらでもあるということだ。

車は地下の役員用車寄せに進んだ。

「なんか大げさですね」と保坂が言うと、部長が「あまり見せたくないんじゃないか?」と言った。

「なるほど」

「うむ、そういうことかもしれん」

部長がじっと運転手の後頭部あたりを見ている。

それ以上は会話がなかった。


専用エレベーターで案内され、誰にも会わずに社長室に到着した。

「長谷川部長、一也様、お久しぶりです」という秘書の声をさえぎるように社長の「入ってくれ」という大きな声が聞こえた。

「高瀬さん、お元気そうですね」と部長が挨拶し、保坂は「とりあえず高瀬さん、こんにちは。ご無沙汰しております。今日はお世話になります」と部長の後ろから声をかけた。

そして「父がいつもお世話かけてます」と小さな声で高瀬をねぎらいながら部長に続いて社長室に入った。


「久しぶりだな、二人とも」と父は上機嫌のようだった。

近況をあれこれ話していると長兄がやってきた。

保坂より10歳ほどの兄は専務として父を支えている。見合い結婚で一男一女を儲け貫禄もでてきたようだ。昔から保坂の憧れでいつまでたっても同じ場所には立てないカリスマの兄だ。

挨拶もそこそこに兄が「土曜日は全員集合だぞ(笑)父さんもどこにも出かけちゃだめだって指令が出てる」

「5年ぶりくらいだもんなぁ、皆で集まるのは」

ほんの一呼吸分だけ会話が止まった。

「いや、皆予定があるだろうから気にしないでくれ」と保坂が言うと、

「母さんの命令に逆らえるかよ」

「それに秀が今こっちに居るんだ」

「え~?秀兄さんが?」

確か医者になると言って猛勉強していた次男の秀一しゅういちは、医師免許はとったものの、ある日突然地理学者になると言って大学に入りなおした。そしてそれを辞めて画家になるとかまでは聞いている。

「秀は今は東京に居る。よく出かけるけど今週末は家に来るよ」

「そうなんだ」

「あいつの絵、結構いいセンいってるんだよ。絵の才能もそこそこある。

そしてそれよりもバイヤーとしての能力があるんだ。まぁ秀のことは土曜日にゆっくり話そう」

「うん。楽しみだな」


長兄と保坂の会話を聞いていた父が「高瀬、そろそろ今日のスケジュールを言ってやってくれ」と仕事の話にもどるように言った。

「はい。では、これから昼食を摂っていただきます。

そして午後1時から社長室で社長、専務、長谷川部長、一也様の4名様で打ち合わせをしていただきます。

午後2時から4時まで、これは予定ですが、新しいプロジェクトに関しての会議があります。第一会議室で各役員が出席します。

その後、社長室に戻っていただき再び社長、専務、一也様で打ち合わせを考えております。

長谷川部長には会議の後、技術部部長と打ち合わせが入っています。

そして明日は・・・」

と大まかなスケジュールが読み上げられた。


「お昼は葵亭あおいていでよろしいでしょうか?」という高瀬に「社食に行きたいな」と保坂は返した。

長兄も「私はちょっと部屋に帰らなくてはならないので1時に戻ってくるよ」という。

社長が「じゃ、長谷川君と僕だけ葵亭だな。個室とってくれる?」と高瀬に言った。

保坂は純粋に社食で食べたかったが、長兄は社長と部長の邪魔をしないようにしたのだきっと、そう保坂は思った。


案内の秘書課の女性に社食のお勧めをきいて日替わり定食を食べた保坂は、そのまま社長室に戻り兄がもどってくるのを待った。

案の定、長兄は早めに社長室に戻ってきた。

社長たちの戻りはちょうど1時くらいになるだろう。その前に兄弟二人で話したいというのはどちらも同じだ。

「今回お前の論文を見つけたのはラッキーだったよ。何も知らずに進めていたらたいへんなこになってた」と長兄が切り出した。

「こっち(本社)に移動するか?」

「いや、いずれはそうなるだろうけど今じゃないよね」

「そうだな。もう少し後のほうが自然かもしれん」

「このプロジェクトはメインチームは本社だろうけど、技術と製作は工場に新チームを置いたほうがなにかとやり易いとおもう」

「情報漏れも含めてそれのほうが管理しやすい?」

「うん、そういうこと。それに工場のほうが広いし」

「何年くらいかかるんだ?」

「早くて5年かな」

「3年でメドつけろよ」

「無理だよ、それは。これが完成して起動にのったら僕の実績となって本社に来れるよ」

「だめだ、お前が帰ってくるのは3年後だ(笑)」

「途中で他の人に丸投げしてこいってか?イヤだ」

「まぁ少しずつ口説くか」

「兄さんは交渉上手だからなぁ、口利かないようにするよ(笑)」

そんな話をしていると社長が部長と共に帰ってきた。


「さて、時間になったら知らせてくれ。それまでは誰も入れないように」と社長が高瀬に行った。

長兄が主に今日の会議とそれに続くプロジェクトの立ち上げのフローを説明し始めた。

いよいよ始まる。保坂は気を引き締めて会話に集中した。

保坂と会社間の取り決めも話し合った。プロジェクトの概要とスケジュール、一也と部長の役割と役職、そしていずれは本社に移動になる一也のための道が見え始める。

父と長兄で考えられていたその展開図に一也の意見が足されて4人の前にはかなりはっきりと筋書きが現れてきた。


やがて2時になり役員会議が始まった。

そこで一也の論文についての質問が出る。それに澱みなく答えながら一也なりの手ごたえを感じていた。質問があるということは下調べしてきたからこそである。

不況のこの時勢に膨大な投資をして新規開発をするというのはかなり慎重になっているはずだ。危機感もありさらに慎重になれば、話し合いも深いものになっていく。

ようやく父と兄と一緒に会社を守っていくことができるんだと思うと一也は強くなれるような気がした。








実は、一也は兄二人とは異母兄弟なんですよ。そのあたりの事情はいつか書きますね。

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