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ハンカチの木  作者: Gardenia
第五章
44/67

43  クリスマス

クリスマスの直前23日の夜、亜佐美は数日振りに保坂とゆっくり電話で話をしていた。

毎日何らかの形でやりとりはしているが、法事と来客とで落ち着いた話はできなかった。


保坂は予定通りイヴには東京に行くらしい。

「亜佐美さんとクリスマスを過ごせなくて残念だよ」と何度も言うので、

「お兄様の結婚式じゃないですか。その前に親族でのお食事会とかいろいろあるんでしょ?」と聞くと、

「教会ではベストマンをしなくちゃならないんだよ。それも面倒だ」と言う。

タキシードかしら?フロックコートかしら?保坂の礼服はさぞ素敵だろうと想像すると亜佐美はため息が出そうである。

「それ、いいですね。絶対に写真欲しいかも~。保坂さん、写メ送ってくださいよ!!」と亜佐美が意気込んで言うと、

「写メ?!」と保坂は絶句していた。

「写真見たいんですか?」

「えぇ、えぇ、写メ希望です!」

「写真どうするんですか?」

「家宝にしますっ!!待ち受け画面にも、PCのスクリーンセイバーにも!!」

「家宝?・・・って、亜佐美さん」

保坂がたじろいだ気配で、亜佐美はしまったと思った。

「やけに元気ですね、今日は」

「いえ、出来たらで結構です・・・」と亜佐美の声がしぼんでいった。


「そうですね、写真いいですよ?」

「えっ、ほんとうですか?」

「ええ、ですが、もちろんタダと言うわけにはいきません。何かと交換しましょう」

「交換ですか・・・」

「何と交換するかは考えて置きますよ」

「保坂さん・・・お手柔らかにオネガイシマス」

「亜佐美さん、最後、棒読みです」

そんな軽口を言いながら笑いあった。

つまらないことで笑いあえる日常というのが保坂には欠けているような気がしている。

シリアスになりがちな保坂に時々はリラックスしてもらいたいという亜佐美の考えでもあった。


「そうそう、亜佐美さん、まず写真を撮ることで交換条件があります」

「え?」

「だって、僕は写真を撮られるのはあまり好きではない。撮るだけでもかなり決心が必要なんですよ」

「はぁ、写真撮るのに交換ですか・・・」

「はい。これから二人のときには一也と呼んで下さい。今からそうしてもらえたら写真撮りますよ」

「保坂さん・・・」

「ほら、保坂さんじゃなくて・・・」

「うっ・・・」

「言えないんですか?」

保坂はもう何も言わずに亜佐美の言葉を待っていた。

こういう展開になったら絶対に相手がそうするまで食い下がるに違いない。

亜佐美は観念したほうが良さそうだと思った。


「い、一也さん・・?」

「はい。ようやく呼んでくれましたね」

丁寧だが保坂が喜んでいるのがわかった。

「写真、絶対ですよ?」

「わかりました。約束ですからね」

「楽しみにしています」

「じゃ、写真を差し上げるときの交換条件はまた考えて置きますから」

保坂が電話の向こうでニヤリと笑う様子が目に浮かんで、亜佐美は保坂は絶対にSだと確信した。


「明日は何時出発?」

「10時頃かな」

「僕はお昼までに実家だから、間に合いそうだな。駅に行くときにちょっと寄ってもいいかい?」

「はい、そうしてください」

亜佐美と茜は保坂にクリスマスプレゼントを用意していた。いつ渡せるかなと思っていたところである。

「じゃ、明日ね」「おやすみなさい」

そうして二人は電話を終えた。





翌朝、保坂は家に上らずに亜佐美と茜にプレゼントの袋を渡した。

保坂は「買い物から戻ったらメール送って。心配だから」と言って亜佐美の腕にちょっと手を触れてから、出かけて行った。

亜佐美も小さな袋を渡すと保坂はびっくりしたようである。

「明日を待たないで、電車で開けていいよ」と茜が保坂に笑いながら言った。

あまり感情を表す保坂ではないが、よく見ると嬉しいとか嫌だというサインのようなものが表れることに気がついていて、亜佐美は少しだが保坂の表情から読み取れるようになっていた。


保坂を見送った亜佐美は、茜の手を繫いで家に入りお出かけの準備をした。

亜佐美が運転してアウトレットに行くことになっている。イヴは混雑するだろうが最近買い物という買い物もしていなかったので楽しみでもある。

元義兄は茜とふたりで時間を過ごしたいと思うので、亜佐美はゆっくりと一人で見て回ることにしていた。





大混雑のアウトレットではそれぞれ買い物をして、車のトランクをほぼ一杯状態にして帰ってきた。

茜は父親に買ってもらった洋服に着替えて、予約しているレストランに出かけて行った。

亜佐美は荷物を部屋に運び終えて、しばらく座り込んでしまった。

一人で過ごすクリスマスイヴは初めてだった。

ゆっくりとした動作で部屋着に着替えて暖かいリビングに移動し、ソファーにごろりと横になった。

保坂に『今、買い物から帰ってきました。アウトレット凄い人でした』とメールを送ってからゆっくりと目を閉じた。


遠くから音が聞こえていた。それが携帯の着信だと気がついて慌てて出てみると、従兄妹の瑠璃からの電話だった。

「亜佐美ちゃん、今家に居る?」

「うん、居るわよ~」

「ちょっと寄って良いかな。茜ちゃんのクリスマスプレゼント持って行くわ」と言う。

「いいのに、そんなの」と言うと、

「駄目だよ~。皆から預かってるんだから」

「ありがとね。じゃ、待ってる」

眠っていたのは30分くらいのようだ。

ちょうどよかったと思って亜佐美はソファーから起き上がった。


ほどなく瑠璃が到着したものの、外に人を待たせてるからすぐに行くねと紙袋をいくつかリビングに運び込んだ。

ちょうどその時、亜佐美の携帯が鳴りだした。保坂からの電話だ。

「亜佐美さん、今大丈夫?」

「あ、今ちょう従兄妹が来ていて」と亜佐美が言うと、その後ろから「私はすぐにお暇するから~」と瑠璃が叫んだ。

「あはは、元気そうな従兄妹さんだね。5分くらいしたらまた掛け直すよ」というので一度電話を切った。


「保坂さん?」と瑠璃が聞くので、「うん、そう」と答えると、

「顔が赤くなってるよ、亜佐美ちゃん」と瑠璃が笑った。

「私のプレゼントはこれだけじゃないのよ、亜佐美ちゃん」と瑠璃は言葉を続けた。

「大晦日から新年にかけて、茜はうちで預かるから」とニヤニヤしている。

「泊りがけで寄越してよ。初詣も連れて行くから。なんだったら30日からでもいいよ」と言う。

「いつも悪いわよ」

「何、言ってるの。茜がくるとパパもママも喜んじゃって、私の監視が緩くなるから助かるのよ」

「なるほどねぇ」

「それに、保坂さんとちゃんとデートできるでしょ?」

「え?」

「お泊りデートしてないでしょ?ちゃんとすることしなきゃ駄目よ~」

「え?え?」

「これは私から亜佐美ちゃんに。お泊りデートの時、使って!!」と言ってピンクの紙袋を押し付けて、亜佐美が何も言い返さないうちに瑠璃は帰っていった。


えっと、お泊りデートって・・・、高校生の瑠璃にそんなことを言われるとは思っていなくて驚いていると、保坂からまた着信があった。


「亜佐美さん、もう大丈夫?」

「大丈夫です、たぶん・・・」

「たぶん?何かあった?」

「あ、いえ・・。何でもないです」

ふ~~んと言いながらも保坂は、「朝渡したプレゼントもう開封しました?」と聞くので、

「プレゼントは明日でしょ?ツリーの下に置いてますよ」という亜佐美の答えに笑いながら、

「亜佐美さんへのプレゼント、今開けてもらえますか?」

「え~~?今ですか?プレゼントはクリスマスの朝って決めてるんですけどねぇ」

「他にもプレゼントは考えているので、今日渡したのは今開けてください」

と、いつになく保坂がしつこく開封を促すので、ツリーの下から保坂にもらった箱を取り出した。


包装を開けてみると立派なカメラの箱が出てきた。

「保坂さん、これ・・・」

「あ、酷いな亜佐美さん。一也って呼んでください」

「い、一也さん。カメラです」

「そうです。一眼レフですよ」

「こんな高価なもの・・・」

「今夜はそのカメラの説明書を読んでおいてください」

「でも、こんな・・・」

「まず、バッテリー充電すること!」

「は、はい」

「そのカメラは一眼レフだけどとても軽量にできているので、亜佐美さんでも大丈夫だと思います」

「びっくりしました。カメラは欲しかったんだけど、こんな良いものを・・」

「素直に、ありがとうって言って欲しいな」

「ありがとうございます」

「僕は明後日そちらに戻ります。28日で実質仕事納めなので、社食ことはありますけど年末年始は時間があるのでお天気が良ければ一緒にどこかに撮影に行きましょうか」

「お正月はこちらで?」

「そのつもりです」

「じゃ、張り切ってお弁当作ります」

「それは楽しみだなぁ。僕もカメラを触るのはは久しぶりなので楽しみですよ」

「あの、ほんとうに有難うございます」

「うん。僕も亜佐美さんから頂いたタイピンを今していますよ」

「あ、気に入っていただけたら嬉しいのですが」

「今日と明日で大活躍しそうです、このタイピン」

亜佐美は保坂にネットで探して新素材の金属でできたタイピンをプレゼントしたのだ。

シャープでシンプルなデザインが保坂に似合いそうだった。


「あ、僕はもう行かなくてはなりません」

「ご家族水入らずのお夕食ですよね?」

「久しぶりに顔合わせたからなかなか盛り上がってますよ」

「明日は頑張ってくださいね。写メ忘れないでください」

「はいはい(笑)約束しましたからね。明日は電話できないかもしれませんから、

今言って置きますね」と保坂が言った。

「メリークリスマス」

亜佐美も「メリークリスマス」と言って電話を終えた。






そろそろ二人の大人のデートシーンを書かなくてはなりません。

大人の付き合いにはどうしても避けられない。

R-15の範囲ですが、なかなか難しいです。

頑張ります。

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