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ハンカチの木  作者: Gardenia
第一章
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3   合コン

金曜日の朝、アラームで目が覚めた保坂はまずコーヒーを淹れた。

淹れるといってもカプセルコーヒーも水も前夜のうちにセットしているので電源ボタンを押せば25秒で本格的なコーヒーが出来上がる。

無駄のないスタイリッシュなデザインが気に入って春に購入してしまったエスプレッソマシンだ。

TVをつけCNNニュースを聞き流しながらパソコンの電源を入れる。

コーヒーを飲みながらひと通り世界のニュースをチェックするころにようやく目がさめてくる。

おもむろに部屋を片付けて、身体をほぐすためにストレッチをし、そしてシャワーを浴びる。

一連の行動が決まっているので時計を見なくても時間に余裕があるのがわかっている。

冷凍しているパンを取り出してオーブンで温め、野菜ジュースを飲み、その日は合コンだったことを思い出しビタミン剤を多めに摂ることにした。

飲み会や夜更かしが少し楽になるかもしれない。

簡単な朝食が終わったら着替えて出社するだけだ。


保坂も同僚たちと同じようにスーツを着る。

入社当時から体系に変化がなかったのだが、一人暮らしを始めてから筋力トレーニングを増やしたため肩まわりや首が少し太くなっている。

今は少しきつく感じるくらいだが、次の購入時はサイズを変えなくてはならないかもしれないと思っていた。

スーツの色を決めているのでシャツも毎回同じような色を買えば良い。

ネクタイだけはインターネットでファッションをチェックしてそのときの流行をとりいれるようにしている。そのネクタイも普段はしなくてもよい職場なのでポケットに入っていることが多いのだが、会議などでは必要になるので保坂としてはこだわりを捨てられないものだ。


家をでてスーパーの手前でふと昨日のことを思い出した。

歩くスピードを落とさずに黒の板塀の小さな扉をちらっと確認する。

ピンク色のランドセルが印象に残っている。ドアは今朝は開くことがなくきちんと閉まっていた。


いつもの電車に乗る。

いつもの駅で降りていつもと同じ道を歩き職場に到着する。

保坂にはいつもと同じというのが好ましく感じられる。


始業時間になると課長から呼ばれた。

課長は前日に保坂がデスクに置いた仕様提案書を持っていた。

「1時間後に会議室に来るように」と言われ、「はい。わかりました」と答えたものの内心は、いつもだったらその場でダメ出しされるか部屋の一角にあるミーティングコーナーで詳細まで詰めるのだが今日はおかしいと思っていた。

いつもと違うということは工程や結果もいつもと違うことになるんだろうなとは思った。


会議の少し前、会議室が使われていないことを確認した保坂はノートPCを運び、課長からの質問をシュミレーションしていた。

どうせ来週の会議でも提案者として発表することになるので頭の中を整理しておく必要がある。

ほどなくして課長が顔を出す頃には保坂の準備はすっかり出来上がっていた。


課長は「この改善案の説明を火曜日の定例会議でできるか?」とすぐに聞いて来た。

「文章だけではなくサンプル画像も取り入れたほうがいいでしょうか?」と保坂が聞くと、

「この場合、あったほうが現場がはやく理解できるんじゃないか?きっと次のバージョンアップのときに参考になるとおもう。」という言葉が返ってきたので、「それでは展開図と完成予想図も入れてみます」と保坂が答えた。

「ただ火曜日までには精密な展開図は無理なのでドラフトで、あとは採用後に設計するというコメントを入れて、そういう形でいいですか?」とノートPCにあらかじめ出しておいた画像を見せると、

「あぁ、問題ない。保坂は手回しがいいな。コストの計算もしてあるし、まぁこの機種が製造される限りバージョンアップ時に採用になるとおもう。」

「はい、火曜日までに仕上げておきます。早瀬に手伝ってもらっていいですか?」

「早瀬は今急ぎのプロジェクトがないから大丈夫だろう。本人がOKなら手伝ってもらえ。」

「はい、ありがとうございます。」


「さて、話は変わるが・・」と課長は言葉をつないだ。

「本社でな、先月の論文が話題になってる。」

「あぁ、あれですか。」

数ヶ月前に工学関係の本に保坂は新しい論文をひとつ送っていた。

院生のときから保坂は定期的に論文を発表している。まだどれも大絶賛されたことはないが、毎回少しばかりは反響があったし、論文を楽しみに待っててくれる人が居ることも励みになってた。

「実はかなり前から新しいプロジェクトの立ち上げを計画していていよいよ実行だというときにお前の論文が発表された」

タイムリーなことだと思った。いずれどこかが作るものだ。この会社が作るなら俺が発表しておいて良かったよと保坂は思っていた。

「来週本社に出張だぞ。たぶん木曜日か金曜日。」

「はい」

「その後、新しいプロジェクトにお前が必要だと判断されたら移動することになる。この5年で基礎も覚えたから次は応用やってみろってところだ。」

「はい。わかりました。本社で話聞いてきます。」

会議室を出る前に「この話はまだ極秘だぞ」と課長が一呼吸分だけ心配そうに保坂を見つめた。


職場に戻った保坂は薫が手伝えるということなので、火曜日の会議に使う資料を渡した。

薫は資料をわかりやすくまとめるのに長けている。

一緒にひと通りざっと見てフローを確認すると、「展開図のページだけ保坂チャンが作ってね」と言って、月曜最終までにやっとくと請け負った。


保坂は就業時間まで展開図に取り組んで、定時に仕事を終わった。

本当は少し残業したかったのだが、「今夜は合コン♪ 忘れないでね~」と香川に可愛くお願いされたのでしぶしぶ定時あがりだ。


合コンは保坂の住まいの最寄り駅前の洒落た居酒屋の予定だ。

一度マンションに帰って着替えてから行くつもりで電車を降り、スーパーの角を曲がった。

黒い板塀の扉はひっそりと閉まっていた。


保坂は帰宅すると必ずスーツを風通しのよいところにきちんと掛けておく。

クローゼットに入れる前にブラシをかけて仕舞うことにしている。

軽くシャワーを浴びて今シーズン最初に買ったジーンズとシャツを着、ブレザーを手に持ってでかけた。

集合時間ちょうどくらいに店に到着したものの保坂がいちばん最後だった。

皆の気合の入れ具合がわかると言うものだ。気づかれないようにはぅっとため息をついてしまったのは仕方ない。

男女5人ずつの合計10人。ちょうど良い人数だ。

10人で同じ話題を続けるのは無理だから、やがて隣の人とだけ話していれば場はつくろえる。

少しくらい話さなくなっても気がつかない場合もあるし、メンバー観察ができるので合コンで盛り上がりきれない保坂としては都合がいいのだ。

女の子の飲み物を気遣い、会話の流れが滞らないように話題を振り、こっちを見つめている子が居ればニッコリ微笑んでおけばほとんどの場合何の問題もなく終われる。二次会に参加しなければ大丈夫だ。

たいていの場合、保坂は女の子から電話番号を教えてもらえる。学生の頃は楽しく活用させてもらったが、社会人になってからは合コンで知り合った女の子には連絡をしないことにしていた。

さて、この夜の女子大生は10歳近く年下なのでとても子供っぽい。皆お酒を飲んでるがはたして何人が成人しているのだろうか。

話に夢中になるばかりにグラスを倒しそうになったり、汚れたお皿にブラウスの袖がくっつきそうになったり、その都度さりげなくグラスやお皿を移動させるのに忙しい夜だった。


場所を移動する時間になり、あらかじめ香川と打ち合わせたとおり集めたお金を保坂が店側に払ってる間にみんな二次会に流れて行った。

あとはひとりのんびり帰るだけである。

今夜は何もしないでぼんやりと過ごそうと保坂は思った。













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