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ハンカチの木  作者: Gardenia
第二章
13/67

12  亜佐美の日々

伯父の事務所を出てすぐに銀行に行き入金を終えて亜佐美はほっとした。

今年の春先の確定申告では収入がどうなっているのか計算するのにすごくたいへんなめにあったのだ。

それまではお金はすぐに入金することもあるし、買い物をした残りを入金するこもあった。

使ったお金も個人消費と経費とがごっちゃになっていた。

父の仕事を手伝っていたのでそのままの方式で書類だけは保管していたのでなんとかなったのだ。

その後おおいに反省して、どうやって数字を管理するのか亜佐美なりに考えてみたのだ。

今は伯父からお金を受け取ったら全部一度銀行に入れるという方法をとっている。


ほっとしたらこのまままっすぐ家に帰るのはもったいないと思ったので、車でそのまま郊外の農家に行くことにした。

亜佐美が卒業したのは女子短大だ。勉強が好きでもなく、家から通えることと学校だけは出ておかないとという親の勧めもあって選んだのだが、似たような境遇の学生が多かった。

東京からよりも地方から来た子のほうが多かったし、この土地の同級生ももちろん何人も居た。

その同級生のなかには実家が農業を営んでいる家もあって、今でも亜佐美は同級生の実家に野菜を買いに行くことがある。

農家に行くにはもう少し小さな車のほうがいいかもしれない。古い父の車を運転しながら、車の買い替えのことを伯父に相談すればよかったと思った。


20分ほどで住宅街も終わり、目指す農家が見えてきた。

農家の手前で路肩に車を止め畑を注意深く見てみる。誰も見当たらないので車に乗り込んで農家の裏側にまわってみた。ハウスのほうにトラックが見えたのでそちらに近づいていった。

今の時間は母屋に行っても誰も居ないことのほうが多い。直接畑やハウスを探すほうが早いのだ。

「こんにちは~。よかった。ハウスのほうで助かったわ」と作業をしていた農家の奥さんに声をかけた。

「亜佐美ちゃん。久しぶりだね」

「また美味しい野菜をわけてもらいにきました」

「今日はインゲンかな。南瓜もあるよ。南瓜はほれ、そこ」

と指差すほうを見ると大きな南瓜が十数個、作業小屋の入り口に並んで置かれてた。

それと胡瓜とトマト、そして茄子も選んで車に積む。

「どう?泰子ちゃんは元気してる?」泰子というのはこの家の娘で亜佐美の同級生だ。

「うんうん、相変わらずだよ。男もいないようだし、職場との往復」と泰子の母が笑って言った。

「亜佐美ちゃんのほうはどうよ?」

「お弁当作ってるのよ。今日は4個」と苦笑しながら答えた。

「いろいろたいへんだったものね、しばらくはのんびりしなよ」と泰子の母は優しく言ってくれる。

お金を払いながら、「あ、そうだ、おばさん。私最近ハーブを植えているんだけど、もう少し種類が欲しいんだ。どこかハーブの苗を売ってるところ知らない?」と聞いてみた。

「ハーブねぇ。うちらはあまりそういうの使わないから・・・」

「そうなの?畑の隅っこに植えてくれると助かるんだけど?」

「あ、そうだ。農協は行ってみた?」

「最近はJAって言うんでしょ?」

「うん、そう、JAだったらいろいろあると思う。種とか苗とか、探してくれるんだよ」

「そっか、じゃ、これからちょこっとJAに行ってきますわ」

「うん、そうしなよ」

「じゃ、今日もありがとうございます。泰子ちゃんにたまには電話ほしいって伝えてくださいな」

「はいよ。またお茶でも飲みに来なさい」

泰子の母はいつも3時になると作業を終えて母屋に戻る。お茶の時間にはケーキも作ったするお料理上手で気さくな小母さんだ。

今度はお茶の時間に来ようと亜佐美は思った。


JAでは苗のコーナーに行ってハーブが無いかと探したがあまり気の利いたのはなかったので受付で尋ねてみた。

欲しい苗は取り寄せてくれるが、JAの性質上季節のものしか手配できないということと、最低限の購入ロットが決められているため素人には量が多すぎるのではないかと指摘された。

時間がかかるが小袋に入った種はあるのでそれを植えてみたらどうだと勧め、「小さい袋でしょ。でも全部生えてきたらすごい量になるからね」と対応してくれた女性が笑った。

苗は、送料も居るし割高だけど通販で欲しい量だけ買うほうが賢明と教えられ、お勧めどおりJAでは種を3種類ほど買ってあとはインターネットで探すことにした。


家に帰るともう茜が帰宅する時間になっていた。

とりあえず野菜をリビングの窓際にある小さなテーブルの上に置き、キッチンで手を洗う。

料理する前に写真に撮ってホームページの更新に使おう。新鮮で美味しそうな輝きがそのまま写真に撮れないものかと考えていた。


亜佐美がひととおり写真を撮り終える頃に茜が帰ってきた。

「ただいま~」と言って勢いよく自分の部屋に鞄を置きに行く茜の様子をそっと伺う。

今日はどこも汚れていないようだ。心配しすぎだったかもしれない。

やがて茜が宿題を持ってリビングに戻ってきた。

今日はリビングで宿題をするらしい。亜佐美はちょうどPCを立ち上げているところだ。

「手洗ったの?」と聞くと、「うん、ちゃんと洗ったよ」と茜が答える。

「何か飲む?」と聞くとちょっと考えてから茜は「カルピス飲もうかな。あーちゃんも飲む?」と言って冷蔵庫からカルピスウォーターを出した。

二つのグラスを慎重に運んできた茜からカルピスを受け取ると、茜は半分ほど一気に飲んでから宿題を始めたようだ。

茜が今のように自然に他人ひとを思いやれるいい子に育ったと亜佐美の胸が少し温かくなった。

ぼんやりしている間にPCが立ちあがり、先ほど撮った写真を取り込んでいるとメールが届いているのに気がついた。何通かメールが届いていたが、その中にここの市が発行しているタウン誌からの問い合わせがあった。

亜佐美は3回ほど繰り返しそのメールを読んだ。

メールには亜佐美のホームページを見て、この近くの人だと思っていること、タウン誌のなかで『素敵なわが街紹介コーナー』に亜佐美のホームページと写真を取り上げたいことなどが書かれていた。特に写真がそのコーナーの趣旨に合うらしい。

確かにプロフィールのところにはだいたいの住所を書いたはずだと亜佐美は慌てて自分のホームページを確認した。


「茜、どうしよう?」と亜佐美は茜に相談してみた。

茜はあっさりと「やりますってお返事しなよ」と言う。

「え~、どうしよう」と迷っている亜佐美に「あーちゃんが有名になったらカッコ良いよ」とか「ホームページやってる叔母さんが居るって自慢」とか「嫁の貰い手があるかも」とかわけのわからないことを言っている。

散々迷っている亜佐美に最後に茜はこう言った。「あーちゃん。何でもやっておいたほうがよいよ。これが私にだったらどうする?絶対にあーちゃんはやってみろ、何でも経験だと私に言うとおもうよ?」

茜は何時の間にこんな大人びたことを言うようになったんだろうか。亜佐美はほっとため息をついて、「夜まで考えるわ」とだけ言って夕食の支度にとりかかった。


その夜の献立は、甘口のキーマーカレーライスに夏野菜(茄子と南瓜)乗せ、レタスとトマトと胡瓜の小さなサラダ、コンソメスープだった。

テーブルセッティングを終え食べる前にまた写真を撮った。メールの件もあり写真に力が入ったのは言うまでもない。

キーマカレーは多めに作って、少しだけ熱々のジャガイモに混ぜコロッケの準備をした。胡瓜は一口大に気ってピクルスの調味液に漬けた。どれも明日のお弁当用である。

寝る前になってようやく亜佐美は、『お受けしようと思います。つきましては詳細をお知らせください』という内容の返信をした。

送信ボタンを押してもなかなか落ち着かなくて眠れそうになかったが、元来おおらかな性格である。あれこれ考えても無駄だよね。次の連絡がきてから考えればいいかと思い至るとすぐに目を閉じることができた。


翌朝も同じようなスタートだった。

お弁当を作って写真を撮り、茜が出かけるのを見送った。

ブログに載せるお弁当の写真は注文してくれた人に予め許可をとっている。全部を載せるわけでもないが、最初の注文時にそのことは話してあった。

その日は外出の予定がないので、TVをつけたまま前日農家で買ってきた野菜を調理することにする。

南瓜はかなり大きいので、一口大に切ったのはお弁当用、マッシュしたのはスープ用とコロッケ用などを想定して次々と作っていった。

他の野菜はそれほど多くないので数日で使い切ってしまえるだろう。トマトは数個選んで薄くスライスしてオーブンで軽く焼き、ドライトマトを作っておく。

これはパスタにも他の料理にもかなり重要なアクセントになる。


気がついたらお昼前になっていた。

キッチンをざっと片付けて、紅茶を淹れることにした。

ようやくダイニングテーブルに座った亜佐美は、PCの電源を入れた。

ハーブの苗を探そうと思っている。今日はブログの更新もしたい。

熱い紅茶を飲みながら、自分のブログをチェックするとコメントがいくつか届いていた。

返事を書いたあと、仲良くなっている人たちのブログを訪問してみる。

最近はみんな頑張って更新しているので写真もたくさん観るし、それらは亜佐美にとってよい刺激になっている。学校を卒業してししまって、さらにはお勤めもしていないとなると付き合いが極端に減るからだ。

出かけるのは食材や日用品の買い物か伯父のところ、銀行くらいである。茜が居るから夜は外出しない。そんな亜佐美には自宅に居て交流できるブログ友達は大切なものだった。



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