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君がいる街へ  作者: 芙美
7/16

 7 雨の日

 六月になった。

 今日の天気は雨。五月終わりからずっと雨が降っている。

 雨とどんより曇った空は、この人の少ない、活気のない町をいっそう湿っぽくさせる。

 地面も建物も雨を吸い込んでより濃い灰色になる。

 それは憂鬱な景色で、なんだか僕の心のようだった。

 最近は仕事で家を出るのも億劫で、それなのに仕事が終わってもまっすぐ家に帰る気がしない。

 場所が問題なのではない。僕は行き帰りのちょっとした移動さえ面倒で、それにもう全てにおいて何か行動をするということが、嫌でならなくなっていた。

 ぼんやりと天井を眺める時間に慣れきって、それ以外のことをする気にならない。料理も掃除も洗濯もお風呂も手を洗うのも面倒で、やり始めるまでに時間がかかる。何も手をつけず天井を眺める時間だけが段々増えていった。

 なんだかなにもかもが良くない方に進んでいるようだった。


  *


 朝から降っていた雨が、仕事が終わり外に出る頃には一層強くなり、僕はその中を傘を手にふらふら歩きだした。家は店を出て左方向にあるが、今は右方向に真っ直ぐ歩いている。

 家路とは違う道筋を辿り、どこに行きたいわけでもなかったので気ままにゆっくりと、下を向いて歩いた。

 このまま全部放り投げて遠くに行きたかった。それは今までのようにつらい日々から逸脱したいという願望とは違う。このころから僕は、あれだけ強がってかわいがっていた自分を、だんだん疎ましく思うようになっていた。

 何も考えないようにしていたが、違う場所で違う人間になりたいという気持ちが、奥底にしずんで僕の憂鬱が募っていった。

 憂鬱が僕を家から遠ざけようと僕をあてのない散歩に連れて行く。

 しかし散歩には天気が悪すぎる。少し歩いただけなのに、ジーパンの膝から下がびしょ濡れだ。

 散歩を諦めて歩みを止めたが、それでも帰る気にならなかったので、少し先のぽつんと立った洋食屋にはいった。

 僕はこの辺りに来たことがなかったので、こんな店があることも知らなかった。この街には珍しい、よく手入れのされた小奇麗な作りをしている。

 中に入ると席数が少なく、内装は仕切りと少し背の高い観葉植物が座席ごとに配置されている。少し離れた隣の席も意識しなければあまり見えず、人目を気にすることがない作りになっている。

 僕は奥の席に座った。やわらかく沈み込むソファーで、気分が落ち着いた。

 ここで僕はハンバーグを食べ、ビールを飲んだ。

 ビールはのどを潤し、僕の気分をほぐした。ハンバーグは絶品で、気分が高揚し憂鬱が少し和らぐ。

 2杯目を飲み始めた時、新しい客がはいってきた。隣に住む親子だった。

 

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