3 空想の鎧
ずっと僕は何かになりたかった。
『何かって、何に?』
『……』
『…………』
答えなんかあるはずもなかった。
いつも妄想するのは何かになった、何かを手に入れた後の偉大なる僕であり、妄想する僕からその偉大なる僕までの道のりは全くの暗闇で、具体的に考えたり努力をしたことがなかった。
成功すればなんでも良かった。
いい加減だ。
何になりたいかもわからず、何に対しても一つも努力しない。
その僕がどうやって成功するというのだろう。
このままで何かになることは出来ないのに、僕は能天気に空想を楽しんだ。
……いや、能天気ではなかったかもしれない。
どこか焦りながら、切実に空想していた部分もあった。
あの町を逃げ出した時と変わらず、妄想や空想に僕は逃げ続けていたのだ。つらい惨めな現実から。
どこかでは疑っていたけれど、僕は何か出きるんだと本気で信じていた。なんて無邪気で無茶な思い込みだろう。
しかし僕のその得体の知れない信念は、ずっと僕を救っていたのだ。
それは友人すら持たない孤独な僕の心の支えであったし、苦しみから僕を守る鎧でもあった。
鎧を外した生身の僕はとてもとても弱く、とても脆い。
テレビゲームで敵にちょっと触れただけで死んでしまう主人公がいるだろう。あれが僕だ。
きっと僕は鎧がなければ、生きていくことさえ出来なかった。
鎧に包まれた僕は自分を守るためにいつでも怒り、生身の僕は鎧の中で小さく小さくなって、傷ついて震えながら泣いていた。
そうして、どこに行っても、鎧が全てから僕を遠ざけた。
僕は、ちょっと考え方を変えたり、努力をするだけで状況が変わるなんて、夢にも思っていなかったんだ。
愚かだろう。