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君がいる街へ  作者: 芙美
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 2 妄想の僕、現実の僕

 僕がずっと住んでいた町ではどこかで歯車が狂ってしまったんだ。僕が納まるには小さすぎたんだ。誰かの嫉妬を買ってしまい陰で足をひっぱられていたんだ。

 なくした自信を取り戻すように、道々そんな言い訳で自分を落ち着かせて、言い訳に一人で深くうなずいていた。

 長く暮らした町を離れ、知らない町へ行くことは世間知らずの僕にとって困難なことであったが、逆境で僕は強くならず、むしろ一層頑なになった。


 どの町でもうまくいかなかったけど、僕は言い訳の達人だったから、全部を誰かのせいにしてどの町からも逃げ出した。

「僕は悪くないだろう、何故責任をすべて僕に押し付けて平気な顔をしていられるんだ!」

 こうやって間違った言葉をぶつけて相手を不愉快にさせるのは、何より僕の得意とするところだ。

 僕は町から町へと渡り歩いたが、うまくいかず同じことを繰り返した。

 働いて、失敗して、怒られて、僕が怒って、次の町へ行く。そしてまた働いて、失敗して。


 僕は新しい町に着くとすぐ仕事を探しにまわった。手当たり次第にいっていたから割とすぐに見つかったが、もちろん何日もみつからない時もあった。

 仕事が見つからない時には何日も海を眺めたり橋から川を見たり公園で空を見上げたり、ぼんやりとした日々を送る。

 その間に僕が何を考えているか。

 それはこれからの僕の栄光への道、サクセスストーリー……つまりは、妄想だ。

 妄想の中で僕は英雄になり、発明家になり、宇宙飛行士になり、大作家になる。

 どれもこれも非凡で才能が溢れ、尊敬される偉大な人物だった。

 溢れる光の中心にいる、全てを手にした僕。きっとこれはそう遠くない未来予想図だ。

 そのはずだ。

 うっとりと妄想の世界にひたった。

 この世界にいる間だけが、僕にとっての幸せだったかもしれない。


 しかし現実の僕は、あの世界の僕と全然違う。何ひとつうまくやることが出来ない。

 あらゆる仕事に就いては、誰かを怒らせて辞めてしまう。そんなことの繰り返しだった。

 仕事に就けたことは運が良かったのだろうし、巡り合せも良かったのだ。

 皆優しかった。大げさに脚色された悲劇的な僕の経歴を、涙目で聞いてくれる人もいた。

 どの職も見習いで始まり、最初は誰もが拙い僕に対して優しさを込めて接してくれた。みな僕の成長を信じてくれていたが、最終的にはいつまでも変わらない雑で大雑把な仕事や、僕の反省しない態度に愛想を尽かし、嫌悪感を露わに怒りをぶつけた。

『こんなやり方じゃ駄目だと言っているだろう』

 しかし僕はやり方を変えない。

 自信がある、このやり方でいいと自分に言い聞かせていたが、本当は単純に相手の言う事を素直に聞けないだけだった。それをくやしいと感じていた。最初から出来ないのは当たり前なのに、出来ていないことを認めたくなかったのだ。

 僕たちは大声で怒鳴りあい、相手を責め立てた。相手は正論を言っているだけだったが、僕は矛盾も気にせずがむしゃらに自分をかばい、相手を非難した。

 決着なんかつくわけもない。相手はつかれて僕を追い払い、僕はそこを去る。

 時にはそれでも僕を心配して、説教する者もいた。

「お前、このままでいいと思ってるのか?」

 その問いかけに対して、僕は得意げにこう答えた。

「もちろん。しかし馬鹿な人間が世の中に多すぎて、僕は振り回されてばかり損をしてばかりで、本当につらいんだ。皆はもっと変わらなければならないのに全然わかってない」

 そう答えた時の、相手の呆れと怒りと同情のこもった眼差しを、読み取る力が僕にはなかった。

 もう無駄だと頭を振る相手に対して、馬鹿にされていると感じて、僕は怒りを覚えた。

 馬鹿にしている人もいたかもしれないが、それだけではなかったはずだ。

 根気強く僕を説く言葉を、僕は思いやりだと感じなければならなかったのではないだろうか。


 でも、甘やかす以外の、愛情表現や優しさがあることなんか、僕は知らなかった。



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