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君がいる街へ  作者: 芙美
14/16

14 夜空に咲いた花

 僕は酒とたこやきを買い足して、二人でゆっくり平らげた。

 酒は気分をさらに高い場所へ連れて行く。

 僕には、光も空気も、いつもは煩わしいはずの人々の声さえ、良いものに感じられた。

 僕が良い気分に浸っている間に、周りにいた人が少しずつ減っていって、それでもう花火が始まるのだと気が付いた。

 空き缶をつぶしていると、彼女も気が付いて片付け始め、僕たちは席を立った。

 彼女が手に持っていたごみを僕は取り上げて、少し先のごみ箱に捨てた。

 

 会場はもう人でいっぱいで、僕たちは少し見えにくい場所に立った。

 ただの花火でこんなに人が集まるのか、と僕は正直驚いた。彼女がいなければ僕は花火大会に来ることはなかっただろう。

 僕は写真やテレビばかりでしか花火を見たことがなかった。遠くでやっているイベントからの花火を帰り道少し目にしたのと、後は誰かが公園や河原でふざけてやっている、おもちゃのような打ち上げ花火くらいのものだ。

 だから悪い癖が出て、花火会場にいる人間を少し心の中で馬鹿にした。

 暑さを我慢して、こんなものをわざわざ遠くから見に来るなんて。僕はそれに対して軽薄さを感じ、愚かな集団だと周りの人間を見て思い、同時に僕はこの中にいる自分を少しだけ恥じた。


 数分後、花火が上がった。

 まずは、様子を見るように一発。鮮やかな花が夜空に咲いた。

 ざわついた声が歓声に変わった。それから、ざわめきがひいていく。

 花火は、時に連続して夜空に咲き誇り、時に不思議な形をしたものや対岸に仕掛けられた花火で変化を見せる。

 だがそれ以上に、たった一つで夜空を埋め尽くすほどの大きな花火。これが僕には印象的だった。

 それは威風堂々とした、凛とした美しさであった。

 僕は花火を見る前、自分たちを棚に上げて周辺の人間を馬鹿にしていたが、夜空に咲くこの花はあまりに美しく、僕の愚かな考えを覆してしまった。

 心がしびれるような感動を味わって、花火が終わってからも僕は動けずにいた。

 余韻を胸にため息をついた。

「とてもきれいだった」

 僕は俯き加減で少しだけ横を向いて、独り言のように彼女に伝えた。

「きれいでした」

 気のせいか彼女は遠くを見ているような、いつもと違う様子に感じられた。

 彼女も感動していたのかもしれないが、わからない。

 僕たちはまだ動かずにその場にいた。

 帰っている人間も大勢いたが、その場に残ってふざけて遊んでいる人間も大勢いた。かなりの人出だったのだ。

「昔、一度だけ家族みんなで来たことがあるんです。ここの花火大会に」

 彼女はふいにそう口にした。その表情は相変わらず笑みを浮かべているが、僕の目には寂しそうに映った。

 話を聞きたいと思ったが、僕は何も言わなかった。彼女もそれ以上何も言わなかった。

 僕たちはぼんやりと空を眺めた。まだ残っている花火の煙の間から星がちらちらと見える。

 人もまばらになってきて、そろそろ帰らなければいけない。

 花火大会は、もう終わってしまったのだ。


 

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