【いろは歌】狐の嫁入り
声ならん 我は狐の 嫁にゆく
陽へ背を向けて 山さ帰ろう
細道も 愛すお主と 二人居る
***
我とお主は手を繋いで、傾いていく陽を眺めていた。
西陽が人里と森を照らし、徐々に茜に染まる様子が幻想的な風景を作り出していた。
我はその美しい景色に絶句して、何も声を出すことができなかった。
どのくらいの時間そうしていたのだろう。
お主がふと我の方を見る。
「俺で良かったのか?」
申し訳なさそうに聞いてくるお主。
切れ長の目の上にある眉が、ハの字に垂れ下がっている。
「勿論」
我は、お主の顔を見上げて答えた。
ひょろっとして頼りない顔つきをしているのに、我よりも背が高いから、その顔を見つめていると首が疲れる。
「ありがとうな」
我は首を振る。
「礼を言うのは、我だ」
お主は、森を追い出され、行き場のなくなった我を受け入れてくれた。
我はほとんどの霊力を失って、小娘の姿になるのがやっと。もう狐の尾も耳も隠すことは出来ない。
「お主こそ……」
我を迎えることを、里の者から大反対された。
着の身着のまま飛び出してきてしまったから、道具と言えば刀一本を腰に佩いているだけ。
新しい門出の日なのに、少々みすぼらしい姿。
「なんとかなる」
それでもお主は明るく笑う。
その笑顔が好きだ。
我は陽へ背を向けて、山へと向かう細い道を指差す。そこには二人が出会った山小屋がある。
「……帰ろう」
二人は、人の住む里とも、狐の棲む森とも違う道を歩き始める。
突然、雨が降り始めた。
「陽が照っているのに」
お主がそう慌てるので、今度は我が笑う。
「天も我らを歓迎しておる」
愛するお主と居れば、どんなことでもなんとかなる。
全てのかなを一文字ずつ使って、五文字七文字のリズムに揃える。
パズルを解いているみたいで、いろは歌を考えるのって楽しいですね。




