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【いろは歌】狐の嫁入り

作者: M
掲載日:2026/11/07


声(こゑ)ならん 我(われ)は狐(きつね)の 嫁(よめ)にゆく

陽(ひ)へ背(せ)を向(む)けて 山《やま》さ帰(かえ)ろう

細道(ほそみち)も 愛(あい)すお主(ぬし)と 二人(ふたり)居(ゐ)る


***


 我とお主は手を繋いで、傾いていく陽を眺めていた。

 西陽が人里と森を照らし、徐々に茜に染まる様子が幻想的な風景を作り出していた。


 我はその美しい景色に絶句して、何も声を出すことができなかった。

 どのくらいの時間そうしていたのだろう。

 お主がふと我の方を見る。


「俺で良かったのか?」


 申し訳なさそうに聞いてくるお主。

 切れ長の目の上にある眉が、ハの字に垂れ下がっている。


「勿論」


 我は、お主の顔を見上げて答えた。


 ひょろっとして頼りない顔つきをしているのに、我よりも背が高いから、その顔を見つめていると首が疲れる。


「ありがとうな」


 我は首を振る。


「礼を言うのは、我だ」


 お主は、森を追い出され、行き場のなくなった我を受け入れてくれた。


 我はほとんどの霊力を失って、小娘の姿になるのがやっと。もう狐の尾も耳も隠すことは出来ない。


「お主こそ……」


 我を迎えることを、里の者から大反対された。

 着の身着のまま飛び出してきてしまったから、道具と言えば刀一本を腰に佩(は)いているだけ。

 新しい門出の日なのに、少々みすぼらしい姿。


「なんとかなる」


 それでもお主は明るく笑う。

 その笑顔が好きだ。


 我は陽へ背を向けて、山へと向かう細い道を指差す。そこには二人が出会った山小屋がある。


「……帰ろう」


 二人は、人の住む里とも、狐の棲む森とも違う道を歩き始める。

 突然、雨が降り始めた。


「陽が照っているのに」


 お主がそう慌てるので、今度は我が笑う。


「天も我らを歓迎しておる」


 愛するお主と居れば、どんなことでもなんとかなる。

全てのかなを一文字ずつ使って、五文字七文字のリズムに揃える。

パズルを解いているみたいで、いろは歌を考えるのって楽しいですね。

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