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太陽くんは、男の子  作者: 浅華
春の終わり

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9/24

バイトの日。


この店は夜になるとお酒も出す。


高校一年の頃、酔ったお客さんに絡まれたことがあった。


そのとき、従姉妹の高宮日和――よりちゃんに相談した。


「舐められない見た目も大事」


そう言われて、メイクを教えてもらった。


しっかりめのアイライン。

整えた眉。

少し強めのリップ。


それ以来、バイトの日は少し大人びた顔になる。


メイクは好きだ。


これが鎧みたいに学校でも使えたらいいのに、なんて思う。



「今日から入ります、山崎です!」


聞き覚えのある声に顔を上げる。


「……え?」


エプロン姿の山崎陽翔。


「白石さん?」


こっちも驚いている。


店長が笑う。


「知り合い? じゃあ澄ちゃん、色々教えてやって」


そう。


バイト先ではみんな澄を“澄ちゃん”と呼ぶ。


奈津子のお兄さんがそう呼び始めたから、自然と定着していた。


「澄ちゃん、これお願い」


「澄ちゃん、グラス足りない」


飛び交う声に、陽翔が少し目を丸くする。


「へえ、澄ちゃんなんだ」


くすっと笑う。


忙しさが少し落ち着いた頃。


「山崎くん、これお願い」


澄が声をかけると、横から女性の先輩が振り向いた。


「あ、私?」


「あ、そうだった!違います!」


同じ苗字。


一瞬、ややこしい空気になる。


陽翔が吹き出す。


「これさ、俺も下の名前でよくない?」


「え?」


「山崎だと二人いるし」


確かにそうだ。


「じゃあ……陽翔くん?」


口に出してみると、少しだけくすぐったい。


「うん、それで」


軽く笑う。


そこから自然と、


「陽翔くん、これお願い」


「陽翔くん、そこお願い」


と呼ぶようになった。


そんな流れのまま。


「澄ちゃん、これどこ置く?」


て呼ばれた名前。


「あ、やば」


「ん?」


「今、澄ちゃんって言った」


少し照れた顔。


「ごめん。なんかみんなそう呼んでるから、つられた」


澄は思わず笑う。


「ふふ、いいよ別に」


「……ほんと?」


「うん。そのままでいいよ」


一瞬、間があく。


「……じゃあ澄ちゃんで」


少しだけ、嬉しそうだった。



一日一緒に動いてみて、陽翔くんは覚えが早いし、明るいし、物怖じしない。


すぐに先輩たちとも打ち解けていた。


「え、顔良……」


カウンター越しのひそひそ声。


やっぱり、イケメンなんだなと思う。



高校生組は十時上がり。


「おつかれー」


制服に着替えて、ふたりで店を出る。


夜風が涼しい。


「どうしてバイト始めたの?」


「久我と遊ぶのにPC欲しくて」


「ゲーム?」


「うん。クロスプレイだと限界あってさ」


笑う。


「仲いいんだね」


「一年からずっと。時間合えばやってる」


確かに、二人でいるとき楽しそうだと思っていた。


「二人とも、一緒にいるとき楽しそうだもんね」


「そう?」


少し照れたように笑う。


他愛ない話をしながら歩く。


気づけば澄も自然に笑っていた。


駅に着く。


反対方向。


「じゃあ、また明日」


「うん、おつかれ」


手を振って別れる。


電車に乗ったところで、スマホが震えた。


一番上に固定してある、恒一とのトーク。


澄からの「今日バイト」で止まっている。


既読のまま、返信はない。


胸が少し冷える。


通知は、その下。


陽翔くんから。


『今日はありがとう。これからよろしくな、澄ちゃん』


最後の四文字に、少しだけ笑う。




バイト中も、帰り道も。


嫌なことは、全部忘れていた。


暖かくて優しくてイケメンで、太陽みたい。






――私もしっかりしなきゃな。


よし。


ちゃんと聞かなきゃ。


なんで、あのとき何も言ってくれなかったの?


スマホを握りしめた。



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