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放課後の書道部。
墨の匂いが、ゆるやかに部室に広がっている。
半紙を広げて、静かに筆を走らせる音。
……のはずなのに。
「うわ、はねた!」
「それ“永”で失敗するやつ初めて見たかも」
「うるさいなぁ……!」
いつも通り、どこかゆるい空気だった。
澄は自分の紙に向き合いながら、ふと隣を見る。
陽翔くんは、真剣な顔で筆を持っていた。
さっきまで笑っていたのに、
今はまるで別人みたいに集中している。
——ちゃんと、頑張ってるんだな。
そう思うと、少しだけ胸の奥があたたかくなる。
⸻
「そういえばさ、ゴールデンウィークどうする?」
誰かの一言で、空気が変わった。
「あー、バイトかなー」
「俺ら遊び行く約束してるよな」
「え、いつ?」
そんな会話がぽつぽつと広がる。
「澄ちゃんは?」
陽翔くんがこちらを見る。
「私は……三日間くらい、書道の先生のところ行くかな」
「先生?」
「うん、小学校のときから習ってた先生で」
「それって……あの、柳谷 光子先生??」
澄は家から近いこともあって通い始めたが、書道をしている人の中では割と有名らしい。
大会やコンテストに出した作品が展示されると、いつも一緒に見に行く。そのときによく声をかけられる。
先生はもう高齢だからと、生徒は取っていない。
去年、旦那さんが亡くなって一人暮らしになった。
澄は小学校一年生から通っていて、ずっと可愛がってもらっている。
月謝はもう払っていないけれど、
行けば今でも一緒に筆を持って、教えてくれる。
だから、月に二回くらいは顔を出して、
家のことを少し手伝ったりしている。
先生はよく、
「お友達を連れてきてもいいのよ?」
と澄に言っていた。
ふと、陽翔くんを見る。
さっきの真剣に取り組む姿が頭に浮かぶ。
——陽翔くんなら。
「……もしよかったら」
少しだけ勇気を出して言った。
「陽翔くん、一緒に来る?先生がお友達連れてきていいよって、いつも言ってるの」
「え?」
陽翔くんが目を丸くする。
「字、ちゃんと教えてもらえるし……すごく優しい先生だから」
少し間があって、
「……行きたい」
素直な声だった。
その様子に、周りがざわつく。
「え、いいな」
「柳谷先生のとこ!?まじで!?」
一人の先輩が食いついた。
「先輩も来ます?」
澄が聞くと、
すぐ横から別の先輩がその人の肩を小突いた。
「おいおい、俺ら映画行く約束してるもんな??な???」
「……あ」
「だから山崎だけでお邪魔したら?」
にやっと笑う。
「あ、そうなんですね」
澄はにこっと笑った。
「映画、楽しんでください」
⸻
部室を出るころには、
ゴールデンウィークの予定はなんとなく決まっていた。
陽翔くんと、二人で。
先生の家へ行く。
——二人で。
(……連絡しないと)
“友達を一人連れていきます”
先生宛にメールを打ち込む。
——澄ちゃん、お友達を連れてきてくれてもいいのよ?
……ふふ、彼氏でもいいわ
そう言って笑う先生の顔を思い浮かべながら、
澄は少しだけ足元を見た。
更新間が空いてしまいました(´._.`)




