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澄の日常に、
週に一回、陽翔と一緒に部活動に行くことが増えた。
「澄ちゃん、行こ」
陽翔くんはキラキラした笑顔で、いつも声をかけてくる。
それを見ると、自然と気持ちも明るくなる。
一年前、早川さんと仲が良かった野村さんが、ちらちらこちらを見てくるのが気になった。
でも、あまりそちらを見ないようにして、教室を出る。
「あ、陽翔くん。私トイレ行きたいから先行ってて」
まだ一部では、武田と破局したことをコソコソ噂されている感じがある。
さっきの野村さんの視線が、どうしても気になってしまった。
廊下に出ると、部室の方向に野球部の姿が見えた。
「澄ちゃん、荷物持っていっとくね」
教科書が入った重いカバンを、陽翔くんはひょいっと澄の手から取る。
「ありがとう」
澄は野球部から逃げるように、トイレへ向かった。
⸻
情けない……。
気にしたら負けなのは分かっている。
奥の個室に入り、便器に座る。
その時。
「てかさっきのさー」
甲高い声の二人が女子トイレに入ってきた。
「武田くんの次??早すぎねww」
「思ったー!!え、しかも高望みしすぎでしょ」
……ん?
野村さんの声。
澄は気づかれないよう、息を潜めた。
「いや、陽翔優しいからさー」
「てか大物ばっかり狙いすぎでしょ、あれじゃんジャイアントキル?」
「ジャイアントキリングでしょww」
「まじ、上手く言いすぎ??」
ジャイアント……キリング?
澄は手元のスマホで調べる。
ーーー格上の相手に、格下だと思われている側が勝つこと。大番狂わせ。
これって……そういうこと?
そっか。
……私と陽翔くん、そういうふうに見られてたんだ。
「5組のあれ、なんだっけ」
二人はキャハハと笑いながら出ていった。
⸻
声が遠ざかるのを確認してから、澄は女子トイレを出た。
彩音ちゃんの言葉が、ふと頭をよぎる。
——山崎はどう?
「いやいや、ないよ」
小さく呟く。
陽翔くんは、友達。
……!
あんな思い、もうしたくない。
澄は芽生え始めた気持ちに気付かないふりをして、
書道部の部室へ向かった。




