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※3年生書道部視点
一つ下に入ってきたキラキラ男子、山崎陽翔。
「あの……すみません、入部希望です」
なんて言って部室に入ってきたとき、
部屋にいた部員全員に動揺が走った。
いや、そりゃそうだ。
こんなイケメン、漫画以外で見たことない。
しかもそのあと彼は、少し困ったように笑って言ったのだ。
「静かに部活したいので、俺が所属してることは内緒でお願いします」
秘密の共有。
その一言で、男女問わず部員は全員落ちた。
もちろん納得した。
むしろ、
イケメンとの秘密の関係という状況に浮き足立った。
⸻
字が綺麗になりたい、と本人は言う。
でも、実際のところそこまで汚いわけでもない。
男の子らしい、普通に読みやすい字だ。
それでも山崎は、うちのゆるい部活でも真面目に取り組んでいた。
その姿がまた良い。
当時の二、三年はすっかりぞっこんで、
参加率の低かった部員まで競うように部室へ来るようになった。
卒業した先輩たちも、時間を作っては顔を出す。
今年入ってきた一年は、
初めて山崎を見て本気で腰を抜かしていた。
親しみやすくて、明るくて、真面目で、優しい。
……なのに。
ずっと疑問はあった。
なんでこの人、書道部?
⸻
今日も山崎は普通に部室に入ってきた。
「失礼しまーす」
はわ。
空気清浄機かな?
空気が変わった。
「お、山崎おつかれーい」
「おつかれー遅かったなー」
部員たちはキリッとした態度で迎える。
白々しいのは分かっている。
でも仕方ない。
こんなイケメンの先輩をやっているという事実が、ちょっと誇らしいのだ。
そのとき。
「ほら、澄ちゃんも入って」
え?
どうやら今日はお連れ様がいるらしい。
「す、すみません、失礼します」
ぺこぺこと頭を下げながら入ってきたのは、女の子だった。
ネクタイの色で山崎と同じ二年生だと分かる。
「白石澄です。いつも参加せずにすみません」
ガタッ。
二人ほど体勢を崩した。
「し、白石さん!?そんな!!」
「歓迎だよ!!」
「え、山崎と知り合い!?!?」
我が部の、もう一つの星。
それがこの白石さんである。
うちの顧問が無理やり頼み込んで入部してもらった、いわばヒーロー枠。
大会の時など、たまに顔を出して挨拶してくれるが、
非常にやりにくそうにしている。
めちゃくちゃレアキャラ。
……ごめんね。
うちのダメ顧問が。
「澄ちゃんと、同じクラスで」
山崎が爽やかに笑う。
まぶしい。
「大歓迎だよ!」
「来てくれて嬉しい!」
部員たちは席をすすめる。
白石さんは恐る恐る座った。
席は固定ではないが、
山崎は自然にその隣へ座る。
周りの部員も囲むように集まった。
「いつも書道してるわけじゃなくて」
先輩が説明する。
「ボールペン字とか、水性ペンでポップ作ったりもしてるよ」
「今日は好きなお菓子のポップ作ろうと思ってて」
「あ、陽翔くんから聞きました」
白石さんは少しはにかんだ。
「お菓子持ってきてます」
書道以外あまりやったことないので……と恐縮している。
こちらが声をかけるより早く、
「俺が教えるから大丈夫だよ」
山崎が言った。
「って言っても、俺も先輩に教わったことばっかだけど」
そのあとも。
山崎はやたらと白石さんに声をかけ甲斐甲斐しい。
ペンを渡す。
紙を整える。
距離が近い。
……あれ?
部員たちは気づいた。
これは。
い、
犬のしっぽが見える。
書道部七不思議のひとつ。
山崎という男の入部理由。
その謎が、
今まさに解き明かされようとしていた。
どうやら。
完璧なイケメンの入部動機も、
意外と俗っぽいらしい。




