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数日後のショートホームルーム。
「来月の校外学習な。二年最初のオリエンテーションみたいなもんだ。グループで散策するから、今から決めるぞー」
担任の木村先生がのんびり言う。
本当は自由に決めるはずだったけれど、なかなかまとまらない。
「もう先生が決めるぞー。文句なしなー」
教室から不満の声が上がる。
澄は静かに前を向いたまま、名前が呼ばれるのを待つ。
同じグループになったのは、
一年のとき同じクラスだった女子と、
初めましての女子が一人
そして初めましての男子三人
その中に。
「えー! あたし陽翔と一緒がよかったー!」
いつもクラスの中心にいる女の子の声が響く。
ざわっと空気が揺れ、教室が笑いに包まれた。
澄は思わず、そちらをちらりと見る。
山崎 陽翔
一年のころから、女子の間で少しだけ噂になっていた。
イケメンで
明るくて
軽いらしい…?
ちゃんと話したことは、ない。
「よろしく」
グループごとに集まると、陽翔は気軽に手を挙げて笑った。
「とりあえずLINE交換しよ。俺、グループ作るね」
スマホを差し出しながら、ふっと目が合う。
山崎は一瞬、目をぱちっとさせたあと、にかっと笑った
思っていたより、やわらかい笑い方だった
「今日はもう解散!帰れ帰れー」
担任の声で教室が一斉に動き出す。
関わったことのない人たちばかりだけれど、思ったより話しやすそうで、澄は少し安心した。
⸻
今日の放課後はバイトの日。
定期圏内の大きな駅にある飲食店。
昼はカフェ、夜はダイニングバーになる、落ち着いた雰囲気の店だ。
親友のなっちゃん――藤原奈津子のお兄さんの紹介で、高校一年のときから働いている。
「校外学習どこ行くの?」
カウンター越しになっちゃんが聞く。
「隣の県の、散策コースがあるところ。自由行動多めらしい」
「へえ、楽しそう」
そんな話をしていると
大学生の先輩が思い出したように
「あ、そうそう。俺、今年から就活で出勤減るんだよね」
「えー、ほんとですか?」
「そろそろバイト募集かなあ」
店長の声が奥から飛んでくる。
澄はグラスを拭きながら、なんとなくその言葉を聞いていた。
⸻
閉店後。
制服に着替えながら、なっちゃんが横目で言う。
「澄ちゃん、明日シフト入ってなかったよね?」
「うん」
「ってことは、明日も武田待つの?」
「待ってないよ」
「待ってるじゃん」
澄は苦笑する。
「楽しいからいいの」
なっちゃんは少しだけ黙る。
「最近さ……武田と仲いいよね」
澄は少しだけ考え、照れたように笑う。
「うん、いいよ」
前よりも、ちゃんと好きだと思う。
部活帰りに会えるのも、帰り道も、キスも。
「……ふーん」
なっちゃんは、ふっと息を吐いた。
「私はあんまり好きじゃないけどね、武田のこと」
「うん」
知っている。
なっちゃんは前から武田 恒一を嫌っている
また、それが自分を思っての言葉だということも。
理由は、なんとなく分かっている。
中学のころのことを、なっちゃんはずっと気にしていた
あのときの、あの空気。
「でも私は気にしてないよ」
澄はそう言う。
本当に、今はもう。
なっちゃんは何も言わず、ロッカーを閉めた。
帰り道、夜風が少し冷たい。
「あーあ!武田に澄ちゃん取られた気分だー!」
「なにそれ」
二人でケラケラ笑いながら電車に乗る。
けれど、なっちゃんはときどき眉間にきゅっと皺を寄せる。
武田の名前が出るたびに、ほんの少しだけ。
その理由を、澄は思い出していた。




