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「……それ、三日前だね」
小田ちゃんの話を聞きながら、澄は小さく言った。
どうやら。
なんだか、澄が悪いみたいな噂が広まっているらしい。
「……たまたまだよ」
澄は少し視線を落として続ける。
「駅前の塾に弟が通ってるの。恒一のことも知ってるから、私と一緒にいるんだと思って声かけちゃったんだって」
「なにそれ!」
小田ちゃんが思わず声を上げる。
「なんでそれがストーカーになるの!?」
「……」
澄は小さく笑う。
「澄、もう別れてたの?」
彩音が静かに聞いた。
「ううん……」
澄は少しだけ間を置いた。
「別れたのは、次の日」
「「はあ!?」」
珍しく、小田ちゃんと彩音ちゃんの声が重なる。
澄はその反応に、少しだけ笑った。
私の周りは、代わりに怒ってくれる人ばっかりだな。
「もういいんだ」
「……つかれちゃった」
本当は、まだまだ心が痛い。
いつでも泣きたい気分だ。
でも。
心配をかけたくなくて、澄は笑った。
⸻
放課後。
今日はバイトがない日だった。
「澄、今日は何するの」
彩音ちゃんが聞く。
「今日はバイトがないから……」
カフェに。
そう言いかけて、澄は気付いた。
言葉を飲み込む。
誤魔化すように、へらっと笑った。
……でも、嫌だな。
私の中では、もう生活の一部になっていた場所だ。
好きな人を待つ時間。
あの席。
全部。
「澄、カラオケ行こ」
「え?」
彩音ちゃんの唐突な提案。
「え!俺も行きたーい!」
いつの間にか話を聞いていた陽翔が割り込んでくる。
「谷、俺も行っていい?」
そしてすぐに続けた。
「あ、校外学習メンバー誘おうよ!」
結局。
小田ちゃんと吉田くんは部活があるらしく、
久我くんを入れて四人で行くことになった。
⸻
彩音ちゃんと放課後に遊ぶのは、何気に初めてだった。
今までは。
バイトがない日は、恒一を待っていたから。
駅前のカラオケに向かう。
その途中。
遠くに、あのカフェが見えた。
多分もう、行くことはない。
そう思いながらも、つい視線を向けてしまう。
好きな人を待つ、あの時間が好きだった。
胸がぎゅっと痛む。
心臓を握りつぶされたみたい。
いたい。
「澄ちゃーん!!会員証はー?」
陽翔の声。
澄ははっとして振り返る。
「ある!」
思わず笑いながら、答えた。




