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初めて学校を仮病で休んだ。
よりちゃんは何も言わず、学校に電話をしてくれた。
八時半を過ぎたころ、スマホが震える。
彩音ちゃんからのLINEだった。
「澄、大丈夫?」
返信はできなかった。
何度も眠りについては目が覚めて、ぽろりと涙がこぼれる。
また眠って、また目が覚めて。
そんなことを何度も繰り返した。
寝すぎたせいか、だんだん目が覚める間隔が短くなっていく。
ぼんやりと天井を見上げながら、澄はふと思い出した。
――あ、今日バイト入ってたんだった。
高校の人はあまり来ない場所だし
大丈夫、だよね。
のそのそと起き上がる。
鏡を見ると、目は腫れて糸みたいに細くなっていた。
「ふふ……最初からこの顔みたい」
小さく笑う。
化粧をする気には、なれなかった。
⸻
「おはようございます」
バイト先に入る。
「あれ、澄ちゃん今日早いね」
「はい」
なるべく顔を見られないように、少し視線を落とす。
そのとき。
「おはようございまーす!」
聞き慣れた元気な声。
陽翔くんが出勤してきた。
反射的に顔を上げ、目が合う
あ、
陽翔くんは一瞬、目をぱちくりさせた。
そして、にやっとわざとらしく悪い顔をして、私だけに聞こえる小さな声で言った。
「ゃーぃ、ずるやすみ〜」
思わず吹き出しそうになる。
腫れた目なんて、絶対わかっているはずなのに。
何も聞かなかった。
「今日も色々教えてね、澄ちゃん」
いつも通りの声で。
⸻
夜十時。
高校生のシフトが終わる時間。
陽翔くんと、一緒に店を出た。
出勤のときよりは、少しだけ目の腫れも引いている気がする。
「コンビニ寄ろう」
そう言われて、二人でコンビニに入った。
陽翔くんは温かいミルクティーを二本買って、一本を澄に差し出す。
「はい」
「ありがとう」
受け取ると、手の中がじんわり温かい。
しばらく歩いてから、澄は小さく言った。
「今日、ありがとうね」
「なにがー?」
「聞かないでくれて」
陽翔くんは少しだけ考えてから、
「イケメンの胸で泣いていいよ???」
と言った。
「うわ、自分で言った」
澄はくすっと笑う。
「ほんとにいいからね」
そう言って、陽翔くんは優しく澄の頭をぽんぽんと叩いた。
少しだけ、胸が軽くなる。
「はぁ……明日も学校行きたくないな」
ぽつりと漏らす。
「谷さん心配してたし、俺も来てほしいな」
「えー、それ聞いたら行かなきゃなー彩音ちゃんに会いたいし」
「休むときLINEして。俺も休むから」
「なにそれー!?なんで!!??」
思わず声が弾む。
陽翔くんの明るさにつられて、自然と笑っていた。
「はあ、学校行かなきゃだし帰ろっか」
「おつかれー」
「お疲れ様でした」
駅で別れる。
手を振る。
少し歩いたところで、
「あ!明日休むときはLINEしてー!!」
後ろから陽翔くんの声が飛んできた。
「もう!やすみませーんーー!!」
澄は振り返って叫ぶ。
思わず笑ってしまった。
⸻
思わずこぼした小さい声
「一緒に休んで、」
少しだけ、迷って。
それでも続ける。
「……デートしようよ」
勇気が出なくて。
その言葉は、夜の空気に溶けていった。




