14
涙が止まらない。
さっきから、ずっと。
ベッドに座っているだけなのに、胸の奥がぐちゃぐちゃで、息をするたびに苦しい。
もう考えたくないのに、さっきの悠真の言葉が何度も頭の中で繰り返される。
――恒一くんの手、握ってた……
違う。
きっと何かの見間違い。
そう思おうとしても、うまくいかない。
そのとき。
ピンポーン。
インターホンの音が鳴った。
こんな時間に?
ぼんやりしたまま顔を上げる。
下の階から声が聞こえた。
「よりちゃん!こんな時間にごめんなさい!!澄いるよね!?」
なっちゃんの声だった。
「え?澄は上で……でも今は……」
日和の戸惑う声。
「ごめんなさい!!澄の部屋行くね!!」
ドタドタと階段を駆け上がる音。
次の瞬間。
ドアが勢いよく開いた。
「澄!!!!」
振り向く間もなく、なっちゃんが澄に飛びついた。
「澄!澄のばか!!なんで私に相談しないのよ!!!」
ぎゅっと抱きしめられる。
「……なっちゃん……」
その瞬間、また涙が溢れた。
声にならない。
ただ泣くことしかできない。
「……なっちゃん、どうして……」
やっとの思いで聞くと、なっちゃんは息を整えて言った。
「野球部に颯真、森川 颯真いるでしょ」
「……うん」
「前に言ったよね、幼なじみだって」
なっちゃんは澄の肩を掴む。
「バイト終わってスマホ見たら、連絡入ってたの」
澄の胸が、どくんと大きく鳴った。
⸻
※森川視点
……なつに言わないとな、この状況。
「はぁ……」
思わずため息が出た。
また怒るな、あいつ。
⸻
二年になってから、野球部――特に二年の間の空気がおかしかった。
俺は普段、少年野球の頃からバッテリーを組んでいる先輩と、その同級生たちとつるんでいる。
だから、二年の中の空気に気づくのが遅くなった。
高校に入ってすぐ。
野球部の中で、誰が彼女いるとか、そういう話になった。
そのとき出た名前が、武田恒一。
中学から付き合っている彼女が、この高校に一緒に進学してきたらしい。
一年の中では、普通に羨ましい話だった。
俺は先輩とバッテリーを組んでいた関係で、わりと早くレギュラー入りした。
恒一も、メキメキと頭角を現していた。
抜群のセンスで、すぐレギュラー入り。
彼女もいて、レギュラー。
同級生が憧れるのも、まあ分からなくはない。
でも。
聞いた噂は、少し引っかかった。
――彼女、白石澄さんからの告白らしい。
ベタ惚れなんだってさ。
……
白石、澄。
あれ?
第二中学の……白石澄ちゃん?
どこかで聞いた名前だ。
……ああ。
幼なじみの、なつの親友。
前に怒ってたやつだ。
「卑怯な方法で告白された」とか言って、
「お前ら野球部はそういうことあるから大人数で囲むなよ!」って。
なつが、やたら怒っていた。
……なのに。
澄ちゃんの方から告白?
なんか、おかしくないか。
直接聞いたわけじゃないけど、なんとなく疑問が残った。
そのあと、何度か澄ちゃんと顔を合わせる機会があった。
なつの話を少ししたり。
普通の、静かな子だった。
だから余計に思った。
噂と、なんか違うなって。
⸻
ある日、先輩たちと飯を食ってたとき。
「なんか最近さ、二年の間で早川と武田くっつけようぜーみたいなノリあるよな」
そんな話が出た。
「おー、あの可愛いマネちゃんね」
「みどりが、なんとなく嫌な仕事回んないように立ち回ってるって言ってたな」
みどりさんは三年のマネージャーで、先輩の彼女だ。
「女から評判悪い系な」
「え?恒一って彼女いるんじゃないんすか?」
「いや、俺詳しく知らないんだけどな?」
そのときは、まだ。
ただの噂だと思っていた。
⸻
そのあとすぐだった。
同級生のLINEグループに、マネージャーから
「渡したい物あるから集まって」
と連絡が入った。
集まった場所で。
「うおー!!すげー!!」
川端の声が響いた。
手渡されたのは、
マネージャー早川美玲からの手縫いのキーホルダー。
野球部あるあるのやつ。
でも。
先輩の話を聞いていたせいか、
なんとなく冷めた目で見てしまう。
周りは盛り上がる。
「お似合いじゃん」
「武田と美玲」
そして。
恒一の分だけ、
明らかに特別仕様のキーホルダー。
……うわ。
彼女いるの、みんな知ってるよな?
それでこれかよ。
いくら顔が良くても、性格悪すぎだろ。
「まっじで!あの地味な子より美玲ちゃんのが似合いだって!!」
川端の声。
さすがに酷い。
しかも場所は中庭。
思わず言った。
「おい」
でも川端は笑う。
「なんだよー、ノリ悪いなぁ」
……
何も言わない恒一を見る。
いつの間に、
こんな空気になってたんだ。
⸻
そして今日。
珍しく二年だけで動いた帰り道。
恒一は、もういなかった。
駅前。
川端が言った。
「……あれ、いつものとこに白石さんいる」
視線の先。
カフェの窓際。
澄ちゃんが座っていた。
「いつものとこ?」
「いっつもだよ。恒一のこと、あそこで待ってんの白石さん」
笑い声が混ざる。
「俺だったら彼女待たせんの嫌だけどなー」
「向こうが待ちたいって言ったんだっけ?」
そのとき。
川端が言った。
「……あれ?今日美玲ちゃんとどっか行くって言ってなかった?」
そして笑う。
「ストーカー的な?w」
「は?彼女いるのにか?」
「いやー知らないよ。もう別れてんじゃね?」
「さすがに美玲ちゃんに乗り換えるでしょ」
「白石さん待ち伏せしてんじゃね?w」
笑い声が続く。
……最悪だ。
俺はその場でスマホを取り出した。
なつに電話をかける。
出ない。
もう一度かける。
出ない。
……くそ。
仕方ない。
メッセージを打つ。
『今すぐ澄ちゃんと連絡とった方がいいよ』
ちょっと設定(多分本文に出ない)
森川 颯真
・なっちゃん(藤原奈津子)の幼なじみ
→なっちゃんのことは〝なつ〟と呼ぶ
・野球部
〇なっちゃんと幼なじみ
中学は全く別だが、なつの兄である藤原 彰人(別の高校で3年生)と、今の高校の3年ピッチャーの先輩である朝倉 湊と同じ少年野球チームにいた。
親同士が仲良し。
小学生の頃からいつも保護者と一緒に彰人について来ていたなっちゃんを含め
なっちゃん、彰人、颯真、朝倉は定期的に会ったりが続いていた。LINEグループもある
エリア的に中学は朝倉と一緒で中学でも野球をしている。
ちなみになっちゃんの兄、彰人は中三で怪我をして野球を辞めており、高校ではバイト三昧。湊とはよく会ってる。




