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太陽くんは、男の子  作者: 浅華
春の終わり

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昨日は金曜日だった。


置いていかれた帰り道の冷たさが、まだ体のどこかに残っている。


それでも土日は来る。


澄は土曜も日曜もバイトに入っていた。



土曜日。


この日は陽翔もシフトに入っていた。


なっちゃんはいない。


「澄ちゃん、おはよ」


「おはよう、陽翔くん」


忙しい店内で、陽翔はよく動いた。

覚えも早いし、言われたことをすぐに理解する。


澄が仕事を教えるたび、


「ありがとう」


と、にこっと笑う。


その笑顔は本当に太陽みたいで。

澄の表情も、つられてころころ変わった。


「あのお客さん……カツラ前と後ろぎ逆じゃね?」

陽翔の囁きに吹き出す。


笑いながら働いていると、嫌なことを少しだけ忘れられた。


それだけで十分だった。





日曜日。


今日はなっちゃんがいる。


「そういえばさ」

なっちゃんが言う。


「新しく入ったイケメン、まだ会ってないんだけど」


「ふふ」

澄は少し笑う。


「どんな人?」


「優しいよ」


「同じ高校なんでしょ?」


「うん。クラスも一緒」


「ふーん」


なっちゃんがじっと澄を見る。

「……なにかあった?」


その声は、さっきまでの話ことじゃない。


もっと奥の。


沈んだところを見ている声だった。


「……なんでもない」


「いや、あったでしょ」

なっちゃんが言いかけたとき、


「すみませーん!」


客席から声が飛ぶ。


急に店が忙しくなる。


なっちゃんは十時まで。


澄は十八時で上がりだった。



帰り道。


聞かれたのに、何も言えなかった。


どう言えばいいのか頭の中で整理しながら、澄はスマホを開く。


昨日送ったLINE。


『ごめんね。山崎くんとは特別仲がいいわけじゃなくて、バイトが一緒で、同じ苗字の人がいるから下の名前で呼んでて……』


言い訳みたいな文章。


本当は聞きたかった。


どうして、あのとき何も言ってくれなかったのか。


でも今は、自分が悪いみたいに思えてしまう。


既読はついていない。


澄はため息をついた。


明日はバイトがない。


――一緒に帰れるかな。


話できるかな。









月曜日の朝。


スマホを見る。


昨日のLINEには、既読がついていた。


でも返事はない。


それでも澄はメッセージを送った。


『今日バイトないよ』


『いつものカフェで待ってるね』








昼休み。


お弁当を持ってこなかった彩音と購買へ向かう。


購買と食堂の間の中庭。


そこに、二年の野球部が集まっていた。


恒一の姿は見えない。


……嫌だな。


声が盛り上がる。


ちらっと視線を流す。


どうやら美玲が、二年の野球部全員に手縫いのユニフォームのキーホルダーを配ったらしい。


川端がやけに喜んでいる。


購買は混んでいて、列がなかなか進まない。


彩音が小さく言う。


「澄……上戻ろ」


「大丈夫だよ」


そう答えた直後。


「あれ?!恒一のだけなんか違くないか?」


坂本の大きな声。


「ほんとだ!」


――え。


あ、……恒一いたんだ。


姿は見えなかったけど、集団の中にいたらしい。


「いや、恒一くんはレギュラーだから〜」


美玲の声。


「いや、美玲ちゃん、そうまもレギュラーなのに俺らと変わんないじゃーん笑」


「え!?たまたまだよ〜」


少し慌てた声。


野球部が冷やかす。


「マジで二人お似合いじゃん」


「おい」


森川そうまの強めの咎める声。


その瞬間。


彩音が澄の腕を掴んだ。


「行こ」


購買はもうすぐだったけど、彩音は澄を引っ張ってその場を離れた。


廊下。


「……澄」


「うん」


彩音が澄を抱きしめる。


「……あいつら、あのいけ好かない女殴っていい?」


澄は思わず笑う。


「ふふ……だめだよ」


「私のお弁当、半分こしよ」







放課後。


LINEを見ると、既読はついていた。


返事はない。


怒ってるからだ。


澄はそう思い込む。


そのまま学校を出た。

部活棟へ向かう野球部の集団が見える。

その中に、恒一がいた。


ちらっと見る。


リュックの肩紐。

揺れる見覚えのない何か。


あぁ、昼間のキーホルダーだ。ユニホームの赤と白のTシャツ型。












――あれ


今。


お揃いのキーホルダー……


ついてた……?


見えなかっただけだよね。


嫌な予感と嫌な気持ちを抱えたまま、澄はカフェへ向かった。


まだ返事は来ていない。





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