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家に帰るまでの道のりを、澄はほとんど覚えていなかった。
「姉ちゃん、おかえりー」
弟の声がする。
「……うん」
上の空で返事をする。
それ以上何か聞かれる前に、足早に自分の部屋へ向かった。
ドアを閉めた瞬間。
体から力が抜ける。
崩れるように、カバンを床に落とした。
そのまま、しゃがみ込む。
カチャン。
硬いものがぶつかる音。
澄はゆっくり顔を上げた。
床に転がったカバン。
そこからのぞいている、小さなキーホルダー。
澄は手を伸ばして、それを持ち上げる。
銀色のチャーム。
お揃いのデザイン。
澄のキーホルダーには、恒一のイニシャル――K。
反対に、恒一のカバンには、澄のイニシャルのSがついている。
付き合い始めてすぐ、恒一がくれたものだった。
「おそろい、つけない?」
そう言って。
高校のカバンにつけよう、と。
その話をしたとき、なっちゃんは露骨に嫌そうな顔をしていた。
『ゲー、独占欲じゃん』
そう言って笑っていたのを思い出す。
あの頃は、ただ少し照れくさくて。
でも、嬉しかった。
最近の新しい習慣。
家の前での、短いキス。
「じゃあな」
そう言って帰っていく恒一の背中。
もう。
きっと、ない。
今日は――
置いていかれたから。
澄は、チャームを指でつまんだ。
小さく光る、Kの文字。
キーホルダーだけが、澄の手の中でキラリとゆれていた。
まるで。
ひとりぼっちみたいに。




