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恒一くんに、聞かなきゃいけない。
そう思って、LINEを送った。
『今日、一緒に帰れる?』
少しして、
『わかった』
短い返事。
それだけ。
彩音ちゃんにメッセージを送る。
『今日聞いてみようと思う』
すぐに返ってきた。
『いつでも電話出れるから』
胸が少しあたたかくなる。
⸻
野球部に会いたくなくて、図書館で時間を潰すことにした。
けれど、本は全然頭に入らない。
ページをめくるだけ。
落ち着かなくて、外に出て周辺を歩く。
「あれ、澄ちゃん」
「……! 陽翔くん」
顔を上げると、陽翔と久我くん。
偶然らしい。
「珍しいとこいるね」
「ちょっと時間つぶし」
何でもないふりで笑う。
少し話していると、陽翔がふっと澄の後ろを見る。
一瞬、空気が変わる。
「……来たみたいだよ」
「え」
振り返る。
「澄!」
恒一が近づいてくる。
少し険しい顔。
「じゃあ、澄ちゃん、俺たち行くね」
陽翔が空気を読んで言う。
「あ、陽翔くん、久我くんまたね」
手を振る間もなく。
ぐい、と腕を掴まれた。
「……恒一くん」
無言。
そのまま歩き出す。
速い。
「恒一くん!」
返事はない。
「恒一くん、早い……!」
ち、と小さな舌打ち。
胸がざわつく。
「……ねぇ、なんで」
「仲良くするなって言ったよな!」
怒鳴り声。
頭が真っ白になる。
付き合ってから、初めて。
こんな声。
澄は固まる。
男の人の怒声に、免疫がない。
それよりも。
恒一が自分に向けて声を荒らげたことが、ショックだった。
「俺、あのチャラ男と仲良くするなって前に言ったよな」
「……チャラ男って、そんな」
「は? お前、俺の言うこと聞けないのか?」
喉が詰まる。
「特別仲がいいってわけじゃないよ」
「下の名前で呼んでるのはなんなんだよ」
「それはバイト先で――」
「もういい。俺はそんな話聞いてなかった」
遮られる。
言葉を奪われる。
まるで、澄が悪いみたいに。
勢いに押されて、声が小さくなる。
「…………も、……じゃん」
「あ゛?」
「恒一くんも、私に何も言わないじゃん」
勇気を振り絞った。
「だから浮気しましたってか?」
「!!! してない……!」
なんで。
なんで、そんな話になるの。
聞きたかったのは、それじゃない。
どうして何も言ってくれなかったのか。
どうして守ってくれなかったのか。
それだけなのに。
涙がにじむ。
でも泣きたくない。
泣いて気を引きたいわけじゃない。
歯を食いしばる。
すると、恒一が低く言った。
「……みっともないんだよ」
「………………え?」
心臓が、止まったみたいだった。
「周りにそんな顔されて。俺の顔もあるんだよ」
言い捨てる。
「帰る」
そう言って、背を向けた。
腕のぬくもりだけが、残る。
澄は立ち尽くした。
何が起こったのか、理解できなかった。
聞きたかったことは、ひとつも聞けていない。
ただ。
胸の奥が、ひどく冷えていた。




