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異世界労務局は魔王にも「今日ここまで」を言わせたい  作者: ひろボ


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四十七話 魔王の働き方は、誰の責任か

 翌朝。


 魔王城の客間の窓から差し込む光は、

 王都のそれよりわずかに色が冷たかった。


 けれど、

 朝の空気に混じる匂い――

 焼けたパンと煮込みの匂いは、

 どこか懐かしさすら感じさせる。


「……意外と、普通の朝ごはんの匂いですね」


 ナナが窓辺で深呼吸し、

 フィルは苦笑しながら手帳をめくる。


「『『魔界の朝餉は血と硫黄の匂い』って

 誰が言い出したんですかね」


「勇者物語の書き手でしょうね」


 ヨアナがしれっと答えた。


「現実には、

 胃がもたれて働けない朝食なんて

 誰も望まないわ」


 そのやり取りを聞きながら、

 レオン・グラハムは

 壁に立てかけた板を確認していた。


 《魔王城監査 二日目》


 『午前:魔王陛下の一日の流れ・聴取』

 『午後:城内各部署の板・実地確認』

 『夕刻:合同チーム内での暫定整理』


 その下、

 昨日の夜に書き足した一行が目に入る。


 《※『『魔王の働き方』=『誰がどこまで背負わせているか』》


(今日は、

 ここを確かめに行く)


 レオンは、

 胸の内で短く言い聞かせた。


 *


 魔王城・執務室。


 昨日と同じ扉をくぐると、

 光景もまた、

 ほとんど昨日と変わらなかった。


 書類の山。

 地図の壁。


 そしてその真ん中で、

 魔王陛下がペンを握っている。


 違うのは――

 今日はちゃんと

 顔を上げて彼らを迎えたことくらいだ。


「来たか」


 魔王は立ち上がり、

 机の上を軽く叩いた。


「『『今日ここまで』を作るかどうか、

 話を聞きに来たんだったな」


「はい」


 レオンは一礼する。


「本日は、


 『『陛下が普段どのような一日をお過ごしか』を伺い、

 そのうえで


 『『どこに線を引ける余地があるか』を

 一緒に探させていただければと」


「ふむ」


 魔王は、

 顎に手を当てて少し考える素振りを見せた。


「では――


 いつも通り、

 今日を始めるとしよう」


「『いつも通り』、ですか」


「そうだ」


 魔王は、

 書類の山の一角をぽんと叩いた。


「『『『いつも通り』を変えたいなら、

 まず『『いつも通り』が何かを

 見せねばなるまい」


 *


 魔王の一日は、

 日の出より早く始まっていた。


 魔王城の最上階――

 巨大な魔法陣が刻まれた円形の部屋に、

 一行は案内された。


 床には、

 幾重もの光の線。


 壁には、

 人間には読めない古い文字が

 ぐるりと刻まれている。


 魔王はその中心に立ち、

 肩で息をしながら

 説明を続けた。


「『『世界の継ぎ目』の補強儀式だ。


 『『闇の力』とやらが

 勝手にあふれ出して

 お前たちの国を飲み込まぬよう、


 朝と夜に、

 ここで押さえつけている」


「それを、

 陛下お一人で?」


 ヨアナが思わず口を挟む。


 魔王は、

 少しだけ目を細めた。


「『『魔王』というのは、

 そういう役目だ」


 淡々とした声。


 だが、

 魔法陣が光を帯びるにつれ、


 肌を刺すような圧力が

 部屋の中に満ちていく。


 闇の魔力を押しとどめ、

 形を整え、

 適切な場所に流し込む。


 その仕事の重さは、

 素人目にも分かった。


 レオンは、

 横でギルゼンを見る。


 ギルゼンは

 表情を動かさない。


 ただ、

 ほんのわずか

 指先が強く握られているのが見えた。


(……『『十夜目まで』の黒板の裏側で、

 毎日これをやっていたのか)


(『『十夜の間』どころか

 それ以前から、そしてこれからも)


 儀式が終わると、

 魔王は一瞬ふらついた。


 すかさず副官が支えに入る。


「陛下」


「大丈夫だ」


 魔王は

 支えを払い、

 ぐい、と背筋を伸ばした。


「――次だ」


 *


 儀式のあと、

 魔王はほとんど休みなく

 執務室に戻った。


 朝食は、

 移動の途中で

 小さなパンと干し肉を齧るだけ。


 席につけば、

 立て続けに三件の謁見。


『北方の砦の補給の件』

『地下街の治安維持』

『闇の側に流れてきた異国の商人の扱い』


 どれも、

 どこかで聞いたことのあるような

「王都の日々」とよく似た案件だ。


 ただし、

 決裁の量と速度だけが

 異常だった。


 書類を読み、

 要点を掴み、

 命令を書き込み、

 印章を押す。


 それを、

 ほとんど休みなく続けている。


(……これは、

 『『たくさん仕事をしている』というより、


 『『仕事が魔王の上を押し流している』に近い)


 レオンは心の中で

 小さく舌打ちした。


 昼前。


 ようやく一区切りがついたところで、

 レオンは声をかけるタイミングを掴んだ。


「陛下。


 差し支えなければ、

 ひとつ伺っても?」


「何だ」


「『『この一連の決裁のうち』――


 『『本来なら他の者に任せられるはずのもの』は、

 どれくらいありますか」


 魔王は、

 ペンを止めた。


 紅い瞳が、

 レオンの顔をじっと見つめる。


「『『任せられるはず』、か」


「はい」


 レオンは、

 あえて視線を外さない。


「『『魔王でなくともよい』仕事と、

 『『陛下でなければ決められない』仕事の線引きを、


 一度伺っておきたく」


 しばしの沈黙。


 やがて魔王は、

 かなり素直な声音で言った。


「……知らぬ」


「え?」


「『『任せようと思えば任せられるのだろうが、


 『『誰に』『どこまで』任せてよいのかを

 決める暇がない」


 魔王は、

 机の上の書類の山を見やった。


「『『十夜まで』の黒板もそうだ。


 『『ここまで押し切れ』『ここで止まれ』と

 命じることはできても、


 『『誰の負担をどこまで減らしてやれるか』を

 一枚一枚見てやる時間はない」


 それは、

 王都の王が一度こぼした

 言葉とよく似ていた。


(『『誰の負担をどこまで減らすか』の線を引く役目を、

 『『板の人間』に投げてきた結果が

 十日間だった)


(『『魔王の上』には、

 誰も板を持っていないのか)


 レオンは、

 ギルゼンのほうをちらりと見る。


 ギルゼンは、

 目を伏せていた。


 *


 午前の聴取が終わると、

 一行は一度分かれて

 城内の各部署を回ることになった。


 レオンとヨアナは、

 ギルゼンとともに

 兵站局と情報局の板を見に行き、


 アレクたちは、

 魔王城の警備と宿直体制を確認しに行く。


 そしてナナは――


「厨房、行ってきますね」


 元気よく手を挙げた。


「『『食堂の板』を見てきます。


 『『魔王の昼休み』があるかどうか、

 厨房の人たちのほうが詳しそうなので」


「頼んだ」


 レオンは素直に任せた。


 食堂と厨房の板――

 それは、

 勇者庁が王都で何度も助けられてきた情報源だ。


 *


 魔王城・兵站局。


 黒を基調とした室内に、

 意外なほど実務的な板が

 いくつも掛けられていた。


 《前線補給予定》《影の交代表》《闇焚き火○履歴》


 どれも、

 十夜のあいだに酷使された

 黒板たちだ。


 ギルゼンが、

 ひとつの板の前で立ち止まる。


 《魔王城内 夜間当直》


「ここは、

 城内の当直と警備の板ですな」


 ヨアナが、

 素早く書き写していく。


 目を引いたのは、

 欄外に書かれた小さな注記だった。


 《※陛下は夜間も随時呼び出し可。


 護符を通じて連絡》


「『『随時呼び出し可』……」


 ヨアナが眉を寄せる。


「『『夜間当直』があっても、

 『『陛下だけは当直表に載っていない』」


「その通りです」


 ギルゼンは、

 認めたうえで言った。


「『『呼び出される可能性』を

 あらかじめ制限してしまうことを、


 陛下は望まなかった」


「望まなかった、ですか」


 レオンが問い返す。


「『『誰かの十夜を守るために、

 自分の十夜を使い潰すのが

 魔王の務めだ』と」


 それは、

 どこか誇らしそうな言葉だった。


 同時に、

 聞いている側の胃を重くする言葉でもあった。


「――では、

 その結果、


 誰が得をし、

 誰が損をしましたか」


 レオンは静かに尋ねた。


 ギルゼンは、

 少しだけ目を閉じた。


「『『短い十夜の間』だけを見るなら、


 多くの者が

 『『魔王陛下に感謝する側』に回ったでしょう。


 『『自分たちの負担を肩代わりしてくれた』と」


「『『長い十年』で見たら?」


 今度の問いには、

 すぐには答えがなかった。


 黒板の前に、

 重い沈黙が落ちる。


(――『『誰かが全部背負ってくれている』世界は、

 短い十日間には都合が良い。


 だが、

 その誰かが十年持たないとしたら)


(『『その十年のあと』を誰が書くのか)


 *


 一方その頃、

 魔王城の厨房。


 大鍋と鉄板が並ぶ広い空間に、

 ナナは目を輝かせていた。


「うわ、いい匂い……!


 お邪魔します、

 勇者庁から来ましたナナです!」


「は?」


 いかにも頑固そうな料理長が振り向き、

 ナナの姿を見て目を細める。


「勇者庁?」


「はい。


 今日は『『魔王陛下の働き方』を見に来てまして、

 『『食堂の板』を見せていただければと」


「……食堂の板」


 料理長は、

 ため息をひとつ吐いたあと、


 厨房の端のほうを指さした。


 そこには、

 大きな黒板がひとつ。


 《魔王城 食事当番》


 『朝』『昼』『夜』『夜食』と並ぶ枠の中に、

 当番の名前とメニューが

 ぎっしり書かれている。


「『『当直明けの影用の汁物』とか

 ちゃんと欄があるんですね……!」


 ナナは素直に感心した。


「『『何人分』『どの時間帯に』って、

 すごく細かい」


「食いっぱぐれが出たら

 文句を言いに来る連中が多いからな」


 料理長は鼻を鳴らした。


「『『食わせてさえおけば動く』と思ってる奴もいる。


 ――で、

 魔王陛下の欄を見に来たんだろう?」


「分かります?」


「分かる」


 料理長は、

 黒板の隅を指で叩いた。


 《魔王陛下》


 そこには、

 小さな字でこう書かれていた。


 『朝:軽食(儀式前/後)』

 『昼:時間があれば』

 『夜:政務状況による』


 そして欄外に、

 これまた小さく。


 《※無理に勧めるな。


 『『働かせてやっている』と言う輩が出る》


「……」


 ナナは、

 黒板をまじまじと見つめた。


「『『時間があれば』って、

 それは『『無い』ってことじゃないですか」


「お前さん、

 いいところに気づくな」


 料理長は、

 苦い笑いを浮かべる。


「『『昼食の皿』を用意して持っていくと、


 たいてい『『そこに置いておけ』って言って

 書類と一緒に冷めていく。


 『『夜も、

 『『皆が寝たあとに食べる』って言うから、


 『『胃に悪くないもの』ばかり考えなきゃならん」


「『『無理に勧めるな』って注記は?」


「『『昔、『『ちゃんと食べてください』って

 言った奴がいてな」


 料理長の目が、

 遠くを見た。


「『『『陛下にそんなことを言えるのか』って

 周りに叩かれて、


 『『一時期ここに来づらくなった」


「……」


「『『忠義のつもり』で

 『『『陛下の負担を減らしたい』って声』を

 潰す連中がいるんだよ。


 『『『陛下の覚悟を侮るな』ってな」


 ナナは、

 黒板の小さな注記を指先でなぞった。


(『『働かせたがる奴ら』の声が

 強すぎるんだ)


(『『陛下に休んでほしい』って思う人が、

 ちゃんと声を上げられない)


「……料理長は、

 どう思ってるんですか」


 ナナは尋ねた。


「『『陛下には

 どのくらい休んでほしい』って」


「俺か」


 料理長は、

 大鍋をかき混ぜながら答えた。


「『『一日三回、

 湯気の立ってる飯を

 ちゃんと味が分かるうちに食ってほしい」


「それって――」


「『『『普通』の話だ」


 料理長は、

 自嘲気味に笑った。


「『『魔王だから』って、

 普通を諦めさせるな。


 ――って、

 俺なんぞが言っても

 笑われるだけだがな」


「笑いませんよ」


 ナナは真顔で首を振った。


「『『普通』って、

 いちばん守りづらいものだから」


 そう言って、

 食堂の黒板を手帳に写し取った。


 *


 午後。


 全員が再び客間に集まり、

 それぞれの見てきたものを

 板の前で報告し合った。


 《魔王城 現状メモ》


 『朝晩の儀式:魔王陛下一人で担当』

 『日中の決裁:ほぼ全件陛下の机を通す』

 『夜間当直:陛下は表の当直表に載らず、随時呼び出し可扱い』

 『食事:一日三回のうち二回以上が『時間があれば』』

 『「休んでください」と言う者:いるが叩かれる』


 箇条書きが増えるにつれ、

 部屋の空気は

 目に見えて重くなっていった。


「……言葉を選ばなければ、

 これは『『魔王ブラック職場』ですね」


 ヨアナが

 チョークを握ったまま呟く。


「『『トップが率先して身体を削り、

 止めようとする者の口を

 周りが潰している』」


「『『魔王の働き方』って、

 誰の責任なんでしょうね」


 ナナが、

 黒板から目を離さずに言った。


「『『魔王自身』?


 『『周り』?


 『『仕組み』?」


 アレクが腕を組む。


「『『責任』って言葉を使うと

 誰か一人を指さしたくなるけど――」


 レオンは、

 板の下に新しい枠を描いた。


 《魔王の働き方 責任の所在》


 『本人の信念:「世界を背負うのは魔王の務め」』

 『周囲の美談:「陛下の覚悟を侮るな」「負担を減らすな」』

 『仕組みの欠如:「魔王の欄」「今日ここまで」がない』


「『『三つとも』、でしょう」


 レオンはペンを止めずに続ける。


「『『本人』『周囲』『仕組み』。


 どれか一つだけを

 責めても意味がない。


 ――ただ、


 今この場で

 『『何とかしようとしている』のは誰かと言えば」


 レオンは、

 板の一番下に

 小さくこう書いた。


 《※現時点で『『動いている』のは、『板の人たち』》


「『『板の人』は、

 本当にそういうとこありますよね……」


 フィルが頭を抱える。


「『『全部自分で背負ってる人』を見ると

 居ても立ってもいられなくなる」


「病気ですね」


 ヨアナが冷静に言い、

 ナナが頷いた。


「治す気もないやつ」


 アレクが苦笑する。


 ギルゼンは、

 そのやり取りを聞きながら

 黒髪を指で梳いた。


「『『魔王の働き方』を

 変えさせられなかった責任は、


 まずは我々闇側の板の人間にあります」


 その言葉は、

 重く、

 しかし迷いがなかった。


「『『十夜目のあと』に

 『『再編』の欄』を残すことはできた。


 だが――


 『『魔王本人の欄』は

 空白のままだった。


 それを放置してきた」


「『『こちら側』も同じです」


 レオンも言った。


「『『王の欄』は、

 まだ板にありません。


 『『魔王の十日』にだけ

 線を引けと言うわけにはいきません」


 しばしの沈黙。


 やがて、

 アレクが

 いつになく真面目な顔で

 口を開いた。


「――じゃあ、

 こうしましょう」


「こう?」


「『『魔王の働き方は誰の責任か』って話、


 『『誰のせいか』じゃなくて

 『『誰がどこまで責任を分け合うか』に

 変えましょう」


 アレクは、

 板の余白に線を引いた。


 《魔王の十日 責任の分け方案》


 『儀式:魔王+儀式担当者(新設)』

 『決裁:魔王→決裁前のふるい役を増やす』

 『夜間呼び出し:上限回数・時間帯を板に載せる』

 『食事:一日三回のうち二回は「必須」欄に入れる』


「『『全部魔王』から、

 『『みんなで持つ十日』に変えていく。


 そのための

 『『最初の板』を、


 俺たちで出そう」


「『『最初の板』……」


 ナナの目が、

 少し輝いた。


「『『魔王の今日ここまで』案」


 ヨアナも、

 ペンを取り直す。


 レオンは、

 静かにうなずいた。


「では――


 明日、

 魔王陛下の前に出す

 『『魔王労務監査暫定報告案』の骨組みを、


 今ここで作ろう」


 ギルゼンも、

 黒板のほうに歩み寄る。


「『『闇の側』からも、

 意見を出させてもらおう。


 『『魔王の十日』を

 十年持たせるために」


 *


 それから数刻。


 客間の板は、

 光と闇のチョークで

 埋め尽くされていった。


「魔王の一日の流れ」

「任せられる仕事の候補」

「『『言うと潰される声』を守る仕組み」


 ヨアナは、

 板の端に小さく

 こんな欄を作った。


 《※『『陛下に休んでくださいと言う者』を守る欄》


「ここが、

 けっこう大事だと思うんですよ」


 ヨアナは言う。


「『『『陛下の負担を減らしたい』って言葉』が

 美談に押し潰されないように」


 ナナも、

 その隣に一行書き足した。


 《※『『一日三回、湯気の立つ飯』を食べる時間》


「これは料理長の願いです」


「『『普通』を板に載せるの、

 大事だからな」


 アレクが笑う。


 ギルゼンは、

 黒板に向かって

 静かにチョークを走らせた。


 《※『『魔王を『『例外』』と書かない』》


「『『『誰にも線を引かれない者』を

 放置するのは、


 我々板の人間の怠慢だ』と

 陛下に言われる前に、


 自分で書いておきましょう」


「……それは、

 陛下に言われる可能性が

 あるんですか?」


 フィルが恐る恐る聞く。


 ギルゼンは

 わずかに口元を緩めた。


「ええ。


 『『魔王陛下』というのは、

 案外そういうところが

 おありですので」


 *


 夜が更ける頃。


 板には、

 ひとつの仮の形が

 ようやく見えてきていた。


 《魔王労務監査 暫定報告骨子》


 1.現状把握

 ・儀式・決裁・当直・食事の実態

 ・周囲の文化(美談による圧力)


 2.問題点

 ・『『魔王の欄』不在

 ・『『止める声』を守る仕組みの欠如


 3.提案

 ・『魔王勤務表』試案

 ・『補佐官(労務担当)』新設案

 ・『『今日ここまで』欄の導入


 4.結論への問い

 ・『『魔王の働き方は誰の責任か』を

 『『誰がどこまで持つか』に変える提案』


 レオンは、

 最後の項目の下に

 小さく一行を書き添えた。


 《※本報告は『『命令』ではなく『『裁定案』。


 受け入れるかどうかの決定権は陛下にある》


「……これでいいでしょう」


 レオンは

 チョークを置いた。


 アレクが

 深く頷く。


「『『倒しに来た』わけじゃないってこと、


 これなら

 ちゃんと伝わりそうですね」


「『『働かせたがる連中』には

 嫌われそうですが」


 ナナが苦笑する。


「それはもう、

 覚悟しておいてください」


 ギルゼンが

 淡々と言った。


「『『魔王の十日』を

 十年に伸ばす仕事』は、


 『『今までの十日』で得をしてきた者にとっては

 面白くないでしょうから」


 レオンは、

 板を見上げた。


(――明日)


 『『異世界労務局は魔王にも裁定できるのか』という問いに、


 ひとつの案を

 目の前に差し出す日。


 それを受け取るかどうかは、

 あの書類の山の向こうに立つ男次第だ。


 けれど――


(『『何も出さないまま』に

 戻るわけにはいかない)


 ここまで見て、

 聞いて、

 書いてしまった以上。


 *


 世界は今日も、ほんの少しだけマシになった――


 少なくとも、


「魔王の働き方」を

 『『魔王の覚悟』だけで片づけていた世界に、


 『『一日三回、湯気の立つ飯』を願う料理長と、

 『『止めてください』と言って叩かれた者の声と、

 『『魔王にも欄を作れ』と板の前で頭を抱える

 光と闇の板の人たちが


 ひとつの板の前に

 集まってしまった一日が

 確かに増えた分だけ。


 そして、


 その一日の末に書かれた

 『『魔王勤務表試案』という

 小さな枠が、


 明日、

 魔王本人の前に差し出されることが

 もう決まってしまっている限りは。

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