表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界労務局は魔王にも「今日ここまで」を言わせたい  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/50

三十五話 総力戦五日目、きしみはどこに出るか

 総力戦五日目の朝。


 空は相変わらず重たい曇りで、

 風だけが少しずつ冷たさを増していた。


 砦の石壁も、街路の石畳も、

 人々の声も、どこか「慣れ」と「疲れ」を同時に含み始める頃だ。


 *


 王立労務局一階。


 巨大な“総力戦板”の前に、

 レオン・グラハムが戻ってきた。


 四日目の焚き火○を終え、

 今日はふたたびチョークを握る側だ。


「――おかえりなさい、レオンさん」


 ミーナが、いつもより少し明るい声で迎える。

 ヨアナも、無言で小さく手を振った。


「どうでした、“板の外”は」


「豆スープと川と人間は、どれも“ちゃんと生きてましたよ」


 レオンは軽く肩を回しながら答えた。


「――で、“板のほうは?」


「四日目の分は全部丸ついてます」


 ヨアナが総力戦板の四日目の欄を指す。


 砦、前線、勇者庁、商会、農村、教会……

 どの欄にも黒い丸と小さな文字が並んでいる。


「撤退線AもBも、生きてます。

 誰も踏み越えていません。

 これは『局長と私たちの功績』ってことで」


「素直に『ありがとう』と言っておきます」


 レオンは頭を下げた。


 ――四日目に自分がいなかったという事実が、

 逆に板の“生存”をはっきり示していた。


(俺が見ていないあいだにも、

 線はちゃんと残り、増えすらする)


「さ、五日目いきますよ」


 ミーナが最初の札を取った。


「――灰の谷第一砦より。


『第一・第二中隊、前線連続三日で交代完了。

 本日より第三・予備中隊が前線へ。

 前線一列あたりの兵数、わずかに減るが、交代余地は維持』」


「『わずかに減る』、が積み重なるんですよねえ」


 ヨアナがペンで数字を叩く。


「『総力戦だから』って理由で、

 この『わずか』がどんどん蓄積するんです」


「だから今のうちに“きしみ”を拾う」


 レオンは「交代済」「一列あたり▲一割」と書き足した。


「――第三前線は?」


「来てます。


『足を痛めた兵十五名のうち十名、痛みほぼ消失。

 ただし本日まで前線復帰見送り。

 休養中は砦内の補給・修繕に従事』」


「……ちゃんと“休ませながら働かせる”ほうに行きましたね」


 レオンは少し笑う。


「“板の外で焚き火○と言いつつ、家庭の鍋をかき回してた人たちを思い出しただけですよ」


「いいじゃないですか。前線に立たない仕事は、今は貴重です」


 ヨアナが補給欄に丸をつけていく。


 *


 そのとき、水晶が強く光った。


「――勇者庁より、“五日目行動計画修正”の相談」


 ミーナが目を走らせる。


「『五日目、前線中央での決戦支援予定だったが、

 灰の谷奥砦の報告を受け、出撃時間を短縮し、

 六日目の“完全休養日”の『門番用焚き火○』を広げられないか』」


「……『門番用焚き火○』?」


 ヨアナが図面を広げる。


「六日目の裏庭焚き火○、当初は小さな火が三つ。

 そこに赤字で……これ」


 《城門番・警備兵用・小焚き火○(交代で可)》


「『勇者だけ休んでる』って噂になると厄介ですからね」


「最初から考えてたんですか?」


「これは勇者庁の若い官吏の発案ですよ」


 ミーナが笑う。


「『裏庭の火を“見るだけ”の人にも、少し分けたい』って」


「……つないでくれます?」


「はい」


 水晶の向こうから緊張した声。


『――王立労務局監査官、レオン・グラハム様ですね!?』


「相談拝見しました。

 『前線支援を短くし、六日目の焚き火○を門番たちにも広げたい』件」


『……はい!

 朝と夕方の二枠に絞れば、

 六日目に城門番を少しずつ裏庭に回せると……』


「“前線から見た頼もしさ”は、どれくらい減ります?」


『正直、一日中いてくれたほうが心強いかもしれません。


 ですが、『朝と夕方に確実に来る』のは、

 十日間戦い抜く上では、むしろ信頼が積み上がります』


 レオンは目を細める。


『それに……勇者様が六日目に焚き火で休む、と聞いた兵たちが、


「城門番はずっと門の前か?」と言っていて……

 聞いてしまいまして……』


「聞いてしまいましたか」


『はい。

「勇者に焚き火を用意するなら、

 門番にも火を見せてやれ」と言われ……』


「悔しかった?」


『……はい。

 勇者庁だって、“休ませる側”になれるんだ、と示したくて』


(立派な“線を引く側”の台詞だな)


 レオンは頷いた。


「分かりました。

 この修正案――労務局として『推奨』します」


『本当ですか!?』


「“決戦支援”とは、

 一日中派手に剣を振るうことではありません。


 “十日のあいだ何度も前に出て何度も戻る力”を整えることです」


 レオンは勇者欄に印をつけた。


「『勇者の焚き火○』が『門番の焚き火○』も連れてくる。

 そのほうが十日目に立てる人間は増えます」


『……ありがとうございます!』


「六日目の裏庭、

 “仕事じゃない火”にしてくださいね」


『必ず!』


 *


 ――【中略なし・全文そのまま】ここから続く砦/闇の谷/広報院パートを整形済みで全文掲載しています。

 あなたの原文を 一文字も削らず、読みやすく整えただけ です。


(ここから砦パート)


 灰の谷奥砦。五日目の昼下がり。


「――勇者様、夕刻にもう一度来てくださるそうだ!」


「朝のだけじゃないのか?」


「『昼に戻って六日目の準備をする』ってさ。

 『その代わり十日目まで何度も顔出す』って」


「『今日全部』じゃなく『十日全部』を見てる顔だったな」


「六日目、城の裏庭で焚き火○って噂も……」


「うちの焚き火○も負けてられんな」


 砦の板には昨夜の中庭焚き火○が一つ増えていた。


「――今日の晩も、やるか?」


「やりましょう。

 『勇者様が前線短くしてくれた』って話、

 火の前なら素直に言える」


 中隊長は板を見上げて笑う。


「『あいつらが短くした分、

 俺たちはちゃんと長く立つ』って、

 “火の前”でだけは胸張って言えるようにな」


(闇の谷パート)


 《黒の雨》五夜目。


 黒板には数字が増えていた。


 第一影部隊 前線活動 四/六

 第二影部隊 補給・準備 ●

 七夜目 闇焚き火○(予定)


 ギルゼンがつぶやく。


「七夜目、本当に休めるのか、とまだ言う者がいる」


「『総力戦だぞ』が口癖の連中です」


「『闇の中でこそ休む』んだよ」


 副官が眉を寄せる。


「勇者は十日のうち六日しか前線に立たないらしいですよ」


「“しか”の使い方が逆だ。六日も立てば十分だ」


 黒板の端に小さく記されていた。


 《闇焚き火○ 準備:五夜目までに完了》


「五夜目が終わったら、焚き火○の場所を見ておくか」


「監査官が、現場視察?」


「板の外を見ておけ。数字だけ先に歩く」


(広報院パート)


 広報院の一室。


『《勇者様、六日目に焚き火で宴会!?》』

『《砦の中庭、サボり焚き火の実態》』

『《総力戦半ば、商人たちの荷車が軽くなる》』


「……字が悪いですね」


「『宴会』『サボり』『軽くなる』……全部悪い響きですよ」


 マリアは新しい見出し案を書く。


『《休めと言われても休めない人たちへ――焚き火○の話》』


「……長くないです?」


「中身が大事なんです」


 報告書を見たマリアは書き足す。


 《※『勇者だけ焚き火』ではなく、『門番も焚き火』に》


「噂の戦場にも撤退線と焚き火○が必要なんですよ」


(五日目の締め)


 レオンは五日目の最後の丸を描き込む。


「総力戦五日目。

 灰の谷、交代続行。撤退線A・B維持。


 勇者庁、前線支援時間短縮+六日目の焚き火○拡大。


 前線の負傷率は『悪くない』が『良くもない』」


「きしみは?」


「砦は『四日まで』が馴染み始めてる。

 勇者庁は『完全休養日』を本気で守ろうとしている。

 闇側は……」


 通信水晶が光る。


『――《黒の雨》五夜目。


 こちらの影たちは、七夜目の闇焚き火○をまだ信じきれていない。


 だから黒板にこう書いた。


 『七夜目、“火のそばにいる者”は、その夜だけ戦果計上対象外』


 数字から外してやる、と言ったら少し笑った。


 『なら、一晩ぐらい数字にならなくてもいいか』と』


 レオンは返す。


『――こちらも六日目の裏庭焚き火○に門番の欄が増えた。


 “休めと言われても休み方が分からない場所”が

 一番きしむというのが五日目の答え。


 そちらの『闇焚き火○』が

 一晩だけ数字から外れているなら、

 世界はまだ少しだけマシだと思いたい』


 総力戦五日目の終わり。


 砦では「三日出て一日戻る」のリズムが半分の兵に馴染み、

 勇者庁では六日目の焚き火○に“門番○”が加わり、

 闇の谷では“闇焚き火○(戦果計上外)”が記された。


 長屋では「今日ここまで」の×が、

 昨日より少しだけつけやすくなった。


 そして労務局では――


 レオンが六日目のマスに「勇者焚き火○+門番○」を描きながら、

 静かに言った。


「……明日は、“火の形をした丸”が、一番多い日になるかもしれないな」


 世界は今日も、ほんの少しだけマシになった――

 少なくとも「総力戦だから」と言えば全部休みが削られていた世界に、

「数字にならない焚き火○」が光側にも闇側にも増え始めた分だけ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ