表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界労務局は魔王にも「今日ここまで」を言わせたい  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/50

十八話 聖職者に、勤務時間という概念はあるか

 紅鷲隊の駐屯地に“見える板”を一枚置いてきてから、数日。


 労務局の午前は、いつもどおり紙とインクと、ほどほどのため息でできていた。


「――王城侍女棟、三週目の夜勤回数報告です」


 ミーナが新しい紙束をそっと置く。


「“連続夜勤三晩以上:ゼロ”“夜勤明けの倒れ込み:ゼロ”。

 “寝落ちしかけた子を他の子が起こして部屋に連れ帰った件:一件”」


「最後、なんで項目増えてるの」


「“いい風景でした”ってセリーヌさんのコメント付きです」


 紙をめくると、小さな走り書きがある。


『――王女様の寝顔を見つめながら眠りかけてた子を、別の子が引きはがしてました。

 “倒れる前に線を引く”って、こういうのも含まれますよね?』


「含まれますね」


 思わず笑ってしまう。


 砦も、王城も、地下も、傭兵団も。

 どこも、“完璧”にはほど遠いが、“倒れる前に誰かが気づく”風景は、少しずつ増えてきた。


(……ここまでは、“剣と槍の世界”だ)


 兵士、傭兵、侍女、暗部。

 俺が今まで見てきたのは、そういう“戦場や戦場の周りで働いている人たち”の当直表だった。


 そこに――


「レオンさん」


 ヨアナが、いつにも増して微妙な顔で一通の書状を持ってきた。


「これが……“どう扱うべきか分からない案件”です」


「また増えたのか、“どう扱うべきか分からない”」


 封蝋には、見慣れない紋章が押されていた。


 剣でも盾でも鷲でもない。

 一本の杖と、花弁の輪。


「……主神教会、本庁」


「はい。“王都大聖堂より、労務局殿に助言を乞う”」


 ヨアナは、どこか疲れた笑みを浮かべる。


「“祈りと奉仕は労働にあらず”と主張されてはいるのですが、“倒れる神官が増えました”とも書いてあって」


「はい出ました、“これは労働ではない”理論」


 ミーナが、机越しにひょいっと顔を出す。


「“修行”“奉仕”“お役目”“情熱”――呼び方はいろいろありますけど、中身が“長時間働いてる”なら、だいたい労働ですよね」


「身も蓋もない言い方をするとそうだな」


 ため息をひとつついて、封を切る。


 中には、丁寧な文字でこう書かれていた。


『――近時、王立労務局が軍務省および王城において“働き方の見直し”を進めていると聞き及びました。

 主神の御名のもと、昼夜を問わず祈りと奉仕に励む我らにとって、“働き方”という言葉は馴染まぬ面もございますが――』


『――若き神官・侍祭らが“祈りの最中に倒れる”事例が目立ち始め、老いた司祭らも“立ったまま眠る”ような有様です。

 これをもって“主神への信仰の不足”と断じる者もおりますが、わたくしには、単に“やり方が悪い”ようにも見え――』


『――一度、外部の目から見て、“我らの祈りと勤め”が、“人の体”にとってどのようなものなのか。

 ご意見を賜れればと存じます』


 署名は、“王都大聖堂 首席司祭 マリアン・トラヴァース”。


「……“祈りの最中に倒れる”は、普通に考えたらアウトだよな」


「ですよね」


 ミーナが、ほっとしたように笑う。


「局長にはもう?」


「見せたら、“行ってこい”の一言で終わりました」


 ヨアナが肩をすくめる。


「“神様の前だからこそ働き方ぐらい真面目に考えろ、って言ってこい”って」


「……うちの局長、もうちょっと言葉選べないかな」


「“言葉を選ばない上司”の言葉を、やわらかく訳すのが中間管理職の仕事です」


「いつから俺は中間管理職になったんだ」


 返事を待っても仕方ないので、午後の予定を一つ空けることにした。


 *


 王都の中央から少し南に外れた高台に、白い大聖堂は建っていた。


 高い塔と、大きな鐘楼。

 入口の扉には、主神の象徴である“光輪と花”の彫刻。


 魔王軍との戦争が始まるよりずっと前から、この国の“祈りの中心”になってきた場所だ。


「……王都に住んでても、中に入るのは初めてだな」


 階段を上りながら言うと、隣のリシアが小さく頷いた。


「軍人は、結婚式か追悼式ぐらいでしか来ませんからね」


「そのどっちもまだ経験ないからな」


「レオンが結婚式する日は……想像できないですね」


「余計なお世話だよ」


 そんなやりとりをしながら、重い扉を押し開ける。


 中は、思っていた以上に静かだった。


 高い天井から差し込む光。

 左右の壁には聖人たちの姿を描いた彩色ガラス。

 中央の長い参道の先には、簡素な祭壇と、一本の大きな蝋燭。


 その蝋燭の前で、白い衣をまとった神官が一人、膝をついて祈っていた。


「本日はお越しくださり、感謝いたします」


 祈りを終えた神官――いや、司祭だろう――が振り返る。


 髪には白が混じり始めているが、背筋はまっすぐだ。

 瞳の奥に宿る光は、強すぎも弱すぎもしない。


「わたくしが首席司祭のマリアンです。王都大聖堂へようこそ、労務局監査官殿」


「レオン・グラハムです。こちらは護衛兼止め役のリシア」


「“護衛兼止め役”の方がついておられるということは――」


 マリアンは、わずかに口元をほころばせた。


「“ご自分でも線を越えがちだ”と自覚しておられるのですね」


「……世界中どこへ行っても、それを言われる気がしてきました」


 *


 祭壇脇の小さな応接室に通されると、マリアンは早速本題に入った。


「率直に申し上げましょう」


 司祭は、机の上に一枚の板を置いた。


 そこには、時間と鐘の数と、祈りの種類がびっしりと書き込まれている。


「これが、“大聖堂の一日の祈りと勤め”の時刻表です」


 朝一番、日の出とともに“朝の祈り”。

 その後、鐘が二度鳴るごとに“時の祈り”。

 昼には“正午の祈り”。

 日没前に“夕べの祈り”。

 夜には“終わりの祈り”。


 それに加えて、信徒からの相談、説教の準備、聖堂の掃除、病室への巡回、葬儀、洗礼……


「……多いですね」


「多いですね」


 リシアと同時に声が出た。


 マリアンは、苦笑する。


「祈りの数自体は、昔から変わっておりません。

 問題は、祈りと祈りのあいだに、“戦争に関する用事”が増えたことです」


 負傷兵の慰問。

 戦死者の葬儀。

 戦勝祈願と、和平祈願。


「一つ一つは尊い務めです。

 ですが、“全部同じ人間がやっている”というのが、今の問題なのでしょう」


 マリアンは、板の端をトントンと指で叩く。


「“若い侍祭たちは、“昼間は祈りと奉仕で一杯一杯”、

 “夜には負傷兵の枕元に立ち”、

 “明け方、再び鐘で起こされる”――

 それを、“信仰があれば乗り切れる”と教えてしまったのは、わたくしたち年長の責任です」


「“信仰があれば”は、“情熱があれば”“愛があれば”と同じですね」


 ミーナなら、たぶんそう言うだろう。


「“あるのはいいこと”ですけど、“あるから無茶していい”理由にはならない」


「その通りです」


 マリアンは、はっきり頷いた。


「ただ、“神の前で“働き方”という言葉を使うこと”に、抵抗がある者も少なくなくて。

 ですから、“外から来た方の口で”言っていただければと思いまして」


「また、“外から来たやつに言わせる”ですか」


 思わず笑ってしまう。


 宰相も、暗部副長も、ギルドマスターも。

 みんな、“自分の口では言いづらいこと”を、外部の看板を使って言おうとする。


(まあ、それがうちの仕事なんだけど)


 *


「まず、一つ、確認させてください」


 祈りの時刻表を眺めながら、俺は尋ねた。


「この祈りの回数と時間割は、“誰が決めた”ことになっています?」


「“主神が決められた”――ということになっています」


 マリアンは、少し肩をすくめる。


「実際には、“古い聖典を解釈した昔の偉い司祭様たち”でしょうね。

 ただ、““主神が決められた”と書いてあったほうが、みんな素直に従うので」


「“神が言った”は、強い看板ですからね」


「はい」


 司祭は苦く笑う。


「“神が言った”という言葉で、“自分たちが決めた面倒なルール”を正当化している部分が、きっと多いのだろうと。

 “それを、一度はがして見てくれ”――宰相閣下からも、似たようなことを言われました」


「……うちの局長といい、宰相といい、どうしてこういう案件を迷いなく投げてくるのか」


 頭を抱えたくなりながらも、紙に簡単な表を書き始める。


「“祈り”も、“奉仕”も、“書類仕事”も、“人の体”にはあまり優しくない時間が続くと、問題が出ます」


「“人の体”ですか」


「祈っていようが本を読んでいようが、“眠っていない”という意味では同じですからね」


 俺は、一日の線を引いた。


「例えば、“朝の祈り”から“終わりの祈り”までに、“合計で何刻、意識を集中させているか”。

 それが、一日八刻を超えてくると、“どんな聖人でも”どこかで崩れます」


「……“聖人でも”」


 マリアンが、わずかに目を細めた。


「“聖人ならば、十日徹夜しても祈り続けられる”と信じていた時期も、若い頃にはありました」


「今は?」


「“十日徹夜して祈り続ける聖人がいたら、その隣で水とパンを差し出す人が必要だ”と思っています」


 その答えに、思わず笑ってしまった。


「いいですね、それ。

 “祈りの隣に水とパン”」


「“労務局がそう言っていた”と、説教で使わせていただいても?」


「どうぞ。ただ、“神が言った”にはしないでくださいね」


「そこは気をつけましょう」


 *


 祈りの時刻表の横に、神官たちの名簿を並べる。


 大聖堂には、首席司祭のほかに司祭が八名、侍祭が十五名、見習いが二十名ほど。


「ちなみに、“夜の祈り”は、今はどう回しているんです?」


「“寝ずの番”が四人。

 “終わりの祈り”のあとも、“聖堂に絶えず灯りがあるように”、夜通し交代で祈りを捧げています」


「交代で?」


「……理屈の上では」


 マリアンが、少し気まずそうな顔をする。


「実際には、“若い侍祭が張り切って、自分の番じゃないのに残る”ことも多くて。

 “主神がお見守りくださる夜に寝てしまうのはもったいない”と」


「“徹夜の祈り”が尊い、って空気があるわけですね」


「はい。

 昔、“戦時中に大聖堂の灯りを絶やさなかった三人の神官”の話が、武勇伝のように語られまして」


「あー……」


 頭が痛くなるパターンだ。


「“徹夜で祈り続けた英雄”が一度できてしまうと、それが“基準”になる」


「ええ。

 “あの人は三日三晩祈り続けたのだから、君も一晩ぐらい大丈夫だろう”と」


「それを、“今すぐ禁止にしてください”と言うのが、たぶん今日の仕事ですね」


 俺は、わざと少し冗談めかして言った。


 マリアンは、くすりと笑う。


「“禁止”と言っていただいたほうが、こちらとしても言いやすいかもしれません」


 *


「では、“診断”を」


 祈りの時間と神官の人数を頭の中でざっと割り算しながら、俺はペンを走らせる。


「まず、“一日あたりの集中時間”を計算しましょう。

 “祈り”“説教”“相談”“葬儀”――この四つを、“人前で神の言葉を語り続けている時間”として足します」


 マリアンが熱心にメモを取り始めた。


「“祈りは神に向けているので、人前ではありません”と言う者もいますが――」


「“そこで倒れたら、その場にいる人は全部見る”ので、人前扱いでお願いします」


「……それもそうですね」


 出てきた数字は、予想通りというか、予想以上というか。


「平均して“一日九〜十刻”。

 “忙しい時期は十二刻”……」


 リシアが、露骨に顔をしかめる。


「これ、“砦の中隊長”よりひどくないです?」


「“敵”が見える分だけ、中隊長のほうがまだマシかもしれませんね」


「どういう意味です?」


「こちらは、“倒しても倒しても湧いてくる悩みと不安”を相手にしてますから」


 マリアンが、自嘲気味に笑った。


「終わりが見えない分、区切りをつけるのが下手なのです。

 ――だからこそ、外から線を引いてほしい」


「分かりました」


 俺は、紙の端に大きく一本線を引いた。


「“一日あたり、人前(神前)で集中して立っている時間は、最大八刻”。

 “それ以上は、“祈り”ではなく“拷問”です」


「“拷問”」


 マリアンが、その単語を小さく口の中で転がす。


「強い言葉ですが、きっと必要なのでしょうね」


「強い言葉を外の人間に言わせるために、呼ばれたんでしょうから」


 俺は肩をすくめる。


「“八刻の中に、何をどう詰め込むか”は、教会側で決めてください。

 ただ、“八刻を超えた分”は、“別の日に回す”か、“別の人間に振る”か、“そもそもやめる”か――

 その三択から選ぶルールにすること、これだけは譲れません」


 マリアンは、真剣な顔で頷いた。


「“別の日に回す”“別の人に振る”“やめる”……

 “神の務め”に対して、そういう言葉を使うのは、正直怖いですが」


「“誰かが倒れたあとで全部止まる”のと、“前もって少しずつ止める”のと、どっちがマシか……ですね」


「そうですね」


 *


 さらに細かいところに手を入れていく。


 まず、“寝ずの番”。


「“夜通し灯りを絶やさない”こと自体は、教会としても譲れないんですよね?」


「はい。“象徴”ですので」


「なら、“灯りを守るのは蝋燭と魔法陣”に任せて、“人間は四刻交代”にしませんか」


「蝋燭と魔法陣……」


「魔術師ギルドの文献に、“簡易持続結界用の魔法陣”がありましたよね。

 宰相室が王城の廊下照明に使っているやつです」


「ああ、“誰もいないときも廊下が明るい”あれ」


 リシアが思い出したように言う。


「“聖堂の灯り”を、“人がいるから”ではなく、“魔法陣が支えているから”に変える。

 そのうえで、“そこに立つ人間”は、“見守り役”として四刻交代」


 マリアンは、目を丸くした。


「……そんなことをしても、主神はお怒りになりませんかね」


「“怒るかどうか”は、司祭様が決めていいんですよ」


「え?」


「“主神がこう言った”って、最初に言ったのは人間ですから」


 自分で言っておいて、少しだけ背筋が冷たくなる。


「“健康を損ねてまで祈るな”って決めるのも、“主神のお言葉”にできますよ」


 マリアンは、しばらく黙ってから、ふっと笑った。


「“神の名を借りる”ことには慣れていましたが、“神の名で休ませる”発想はありませんでしたね」


「この国の主神、きっとそっちのほうが喜びますよ」


 根拠はない。

 けれど、“倒れた神官の数”を想像すると、“喜ばない理由もないだろう”と思った。


 *


 次に、“休み”の話をする。


「軍務省や傭兵団にも、“月に一度、隊全体で休む日”を提案してきました」


 紅鷲隊のガルドの顔が頭に浮かぶ。


「ここでも、“月に一度、祈りを減らす日”を作れませんか」


「祈りを……減らす」


 マリアンが、少し難しい顔をする。


「“完全にやめる”のは、さすがに反発が大きいでしょう。

 ですが、“朝と夜だけにする日”とか、“個人で祈りを選べる日”なら、まだ通しやすいはずです」


「なるほど……」


「その日を、“主神への沈黙の日”とでも名付けてしまえば、“新しい儀式”として受け入れられやすいかもしれません」


「“沈黙の日”」


 マリアンは、その言葉をひとつひとつ噛みしめるように繰り返した。


「確かに、聖典の一節に、“七日に一度、主は天地の働きを止めて静まられた”というくだりもあります」


「それ、それです」


 思わず身を乗り出す。


「“主が七日に一度休まれたのだから、人も七日に一度は休んでいい”――

 それ、説教で使いましょう」


「“説教で”」


「“労務局が言っていた”ではなく、“聖典がそう言っている”と」


 マリアンは、声を上げて笑った。


「結局、“神の名を借りる”のですね」


「どうせ借りるなら、“人が倒れないほう”に借りましょう」


「まったく、仰るとおりです」


 *


 話が一段落したところで、マリアンが茶を注ぎながら尋ねてきた。


「……ところで、監査官殿」


「はい?」


「“労務局には、こういう監査を“神に対して不敬だ”と言う者はいないのですか?」


 少し考えてから、首を振る。


「“神に対して不敬だ”というより、“仕事が増えるだろう”って顔をする人間はいますね」


「それは、どこでも同じですね」


 司祭がくすくす笑う。


「ただ、“神の名で人を潰しているほうがよっぽど不敬だ”って顔をする人間も、うちの局には多いです」


 ヨアナの冷静な目。

 ミーナの“それ、倒れるやつですよ”という口癖。

 バルドの、「神様だろうが何だろうが、倒れたら意味がねえ」という乱暴な理屈。


「“倒れる前に線を引きたい”って思っている限りは、誰が相手でも、あまり変わりません」


「……“誰が相手でも”」


 マリアンは、ゆっくりと頷いた。


「“主神であろうが魔王であろうが”と言いそうになって、やめましたね?」


「はい。そこまで喧嘩を売る勇気はないので」


 リシアが横で肩を震わせている。


 *


 大聖堂を辞すころには、外は夕焼けに染まっていた。


 高台から王都を見下ろすと、遠くに軍務省の塔と王城の塔が見える。

 そのさらに向こう、霞んだ地平線の先には、灰の谷と魔王領。


「……なんか、全部つながってますね」


 階段を下りながら、リシアがぽつりと言う。


「砦も、王城も、暗部も、ギルドも、教会も」


「全部、“誰かが眠らずに支えてきた場所”だからな」


「それを、“誰かが倒れる前に止めようとしてる人”も、全部つながってる感じがします」


「向こう側にも、似たようなこと言ってるやつがいるみたいだしね」


 ギルゼンの通信札が、懐の奥で静かに重みを主張している気がした。


 *


 翌日。


 労務局の机に向かって、“大聖堂向け・祈りの時間配分案”を書いていると、例によって通信水晶が淡く光った。


『――魔王軍統一兵站局労務監査課 ギルゼン・ヴァルナ』


 魔力を通すと、短い文が浮かびあがる。


『こちらでも、前線の“神官部隊”の過労が問題になっています。

 “闇の女神への連続奉仕”とやらで、七日眠らぬ者がいるとか。

 ――そちらでは、“光の側”はいかがか』


 思わず苦笑しながら、返答用の札を取り出した。


『――こちらも、“光の側”が似たようなことになっていました。

 “神の名で人を潰すのは、不敬ではないか”という話をしてきたところです。

 “七日に一度、神も休まれた”という聖典の一節を、今さら引っ張り出して』


 少し迷ってから、最後に一文付け足す。


『――“闇の女神”にも、“沈黙の日”が必要かもしれませんね』


 書いてから、“さすがにこれは皮肉が過ぎたか”と一瞬だけ迷ったが、まあいいかと札を乾かす。


 どうせ向こうも、似たようなことを考えている。


 *


 王立労務局監査官、レオン・グラハム。


 王都の大聖堂にも、“見える板”が一枚。

 “祈りの回数”の横に、“休むべき時間”の線が引かれ始めている。


 世界は今日も、ほんの少しだけマシになった――はずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ