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異世界労務局は魔王にも「今日ここまで」を言わせたい  作者: ひろボ


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16/50

十六話 ギルドは労務局の管轄外、のはずだった

 地下保全部の勤務表に赤線を引いた翌週。


 労務局の午前は、いつものように紙とインクとため息で出来ていた。


「――王城侍女棟、夜勤回数表二週目の報告です」


 ミーナが新しい紙束を持ってきて、俺の机の上の山にそっと乗せる。


「“連続夜勤三晩以上なし”“夜勤明けの倒れ込みゼロ”。なかなか順調ですよ」


「いいですね。次は“夜勤明けの顔色”を記録してもらいましょうか」


「怖いこと言わないでください」


 軽口を叩きながらも、数字は悪くない。


 砦の当直表も、王城の見える板も、地下保全部の赤線も――どこも一晩で劇的に変わったわけじゃないが、“倒れた人間の数”と“明らかに様子がおかしい人間の数”は、じわじわ減り始めていた。


(……ここまでは、“王国の中の話”だ)


 軍務省、王城、地下保全部。

 どれも、王国の予算と命令系統の中にある部署だ。


 そこまでは、労務局の看板をぶら下げていけば、まだ話が通じる。


 問題は――


「レオンさん」


 ヨアナが、珍しく眉をひそめて一枚の封筒を持ってきた。


「これ、どうします?」


「どうしたんです、その“扱いに困ってます”って顔」


 封筒の封蝋には、王家の紋章も軍務省の印章もない。

 代わりに、大剣と盾と羽ペンを組み合わせたような紋章。


 見覚えがありすぎる。


「……冒険者ギルド王都支部」


「はい。“王立労務局御中”」


 ヨアナは、封筒を少し持ち上げて見せた。


「“当ギルドにおける依頼受注状況および冒険者の安全管理に関し、意見を伺いたく――”」


「うわぁ」


 思わず、素で声が出た。


 隣の机から、ミーナが興味津々といった顔で身を乗り出してくる。


「来ましたね、“ギルドは管轄外のはず”案件」


「そう、ギルドは王国直属じゃない。ほら、“自治組織”って名乗ってるし」


「でも、依頼の一部は王国から流れてますよね? 魔物討伐とか、護衛とか」


「それはまぁ、そうなんだけど」


 “自治組織”という言葉ほど、“責任の所在をぼかす”のに便利な言葉はない。


 冒険者ギルドは、表向きは“どの国にも属さない中立組織”だ。

 実際は、王国からの依頼も受け、軍務省とも内々の連絡を取り合っている。


(……つまり、“完全に他人事”って顔をしていい相手でもない)


 封を切ると、中には丁寧な文面と、見慣れた単語がずらりと並んでいた。


『近時、貴局が王城および前線砦における勤務表の是正に努めていると聞き及び――』

『当ギルドにおいても、“冒険者の連続依頼”“高危険度依頼の連発”など、これと似た問題が存在し――』

『“冒険者はギルドに雇われているわけではない”との建前上、どこまで踏み込むべきか迷っております――』


 最後の一文。


『――つきましては、一度ギルドにお越しいただき、“労務局の見地から見た、最低限の線”について、ご意見を仰げればと存じます』


 署名は、“王都支部ギルドマスター”の名だった。


「……見て見ぬふり、したいなぁ」


「無理ですね」


 即答だった。


「レオンさん、十四話※でギルドの前を見つめてましたよね」

(※ とは当然言ってないが、顔にはそう書いてあった)


「“絶対当直表なさそうだな”って顔して」


「覚えてるんですね、そういう時だけ」


「“休暇中にギルドを覗くの禁止”って、ちゃんと指針にも書いときましたから」


 ミーナがにこにこと微笑む。


「休暇中はダメですけど、仕事として行くならセーフです」


「世の中には、“セーフ”と“アウト”と“グレー”ってものがあってだな」


「そのグレーを塗り分けるのが仕事ですよね、労務局の」


 ぐうの音も出ない。


 *


 結局、午後。


 俺はまたもや外回りに出ることになった。


 労務局の庁舎を出て王都の中央通りを歩きながら、リシアが横目でこちらを見る。


「“休暇中に行っちゃダメだったところ”に、今度は公務で行くわけですね」


「やめて、罪悪感を刺激するのは」


「罪悪感じゃなくて職業病でしょう」


 通りの先に、石造りの大きな建物が見えてきた。


 扉の上には、封蝋と同じ紋章。

 “冒険者ギルド 王都支部”。


 昼間だというのに、中からは怒鳴り声と笑い声と、金属のぶつかる音が混じった喧噪が漏れている。


(……改めて見ると、“いかにも”だな)


 剣と盾と鎧と傷。

 命を張って一山当てようとしている人間の匂いが、扉の隙間から漏れてくる。


 深呼吸をひとつして、重い扉を押し開けた。


 *


 ギルドの中は、予想どおりの混沌だった。


 右手には酒場スペース。

 木のテーブルで肩を組んで騒ぐ連中もいれば、うつ伏せで寝落ちしている者もいる。


 左手には掲示板。

 色とりどりの依頼票がびっしり張り付けられ、前には冒険者たちが群がっていた。


「“本日中高額依頼”“常時募集中・街道警備”“急募・魔物巣の探索”……」


 眺めているだけで、胃が重くなる。


 受付カウンターの向こう側で、受付嬢が慌ただしく人をさばいていた。


「こちらの討伐報告、サインお願いしまーす! はい、次の方どうぞ! えーと、“三日連続迷宮探索”ですか? 推奨休息期間は――」


 言いかけたところで、俺と目が合った。


 彼女は一瞬だけ瞬きをし、それから「あ」と小さく声を漏らした。


「……レオンさん?」


「え?」


 思わず間の抜けた声が出る。


「えーと、その。“前にうちの店で、帳簿の……」


「あー!」


 やっと思い出した。


 数年前、まだ労務局が出来る前。

 会計局時代に、“赤字続きの酒場兼食堂”の帳簿を見に行ったときのことだ。


 あのとき、店の娘が“臨時手伝い”としてギルドの受付に行ってみる、と言っていた。


「リナ、だっけ?」


「覚えててくださったんですね!」


 受付嬢――リナがぱっと顔を明るくした。


「今は、ここの常勤受付です。えっと、今日はお仕事で?」


「一応、“仕事”のつもりで来たよ。私用で来たって思われると、ほら、怒られるから」


「誰にです?」


「うちの局の人たちに」


 リシアが横から咳払いをして、「“休暇中はダメ”ってちゃんと言いましたからね」と念押しする。


 リナはくすくす笑いながら、カウンターの奥を指さした。


「ギルドマスターがお待ちしてます。こっちです」


 *


 ギルドマスターの部屋は、受付の喧噪から少し離れた奥にあった。


 扉をノックすると、低くしゃがれた声が返ってくる。


「入れ」


 中に入ると、部屋の半分を占めるような大きな机と、本棚と酒瓶と地図。

 机の向こうに座っていたのは――意外にも、小柄な女だった。


 年の頃は四十代半ばくらい。

 銀に近い金髪を後ろで一つに束ね、片目に古い傷跡。

 肩からかけた革のベルトには、使い込まれた短剣が二本。


 ――背丈だけ見れば、王城の侍女頭セリーヌと変わらない。

 ただ、纏っている空気がまるで違う。


「王立労務局の監査官さん、だな」


 ギルドマスターは、俺をじろりと一瞥した。


「王都支部ギルドマスター、ガルシア・ロウだ。好きなようにギルマスとでも呼べ」


「レオン・グラハムです。こちらは護衛兼“止め役”のリシア」


「“止め役”?」


「俺が仕事しすぎそうになったら、止める係です」


 ギルマスが、「はは」と短く笑った。


「自覚があるだけマシだな」


 *


 挨拶もそこそこに、ガルシア――ギルマスは机の引き出しから分厚い紙束を取り出した。


「これが、“最近の依頼受注状況”だ」


 ざっと目を通す。


 依頼の種類、危険度、参加パーティのランク、討伐・達成までの期間。

 そして――同じパーティの連続受注。


「……“三日連続迷宮探索”“四日連続護衛任務”“夜通しの護衛→翌日そのまま討伐依頼”」


 眺めているだけで、頭が痛くなってくる。


「冒険者というのはな、“ギルドに雇われているわけじゃない”」


 ガルシアが、煙管をくゆらせながら言った。


「まとまった依頼を集めて、仲介しているだけだ。

 だから、“労働者の権利”だの“勤務時間”だのを持ち出されても、“知らん”と言おうと思えば言える」


「ですが、と」


「だがな――」


 ギルマスの片目が、細くなる。


「三日連続で迷宮に潜ったあと、ふらふらになって街道の護衛に出て、そのまま山賊にやられて死んだやつの遺体を、“依頼達成の証拠”として受け取るのは、正直もううんざりなんだ」


 部屋の空気が、わずかに重くなった。


「“自己責任”と言えばそれまでだ。

 “依頼を受けるかどうかは冒険者の自由だろう”と言うこともできる。

 ――だが、“ギルドの看板の下で死んだ”という事実は、消えない」


 ガルシアは、煙を天井のほうへと吐いた。


「だから、“最低限の線”がどこに引けるかを聞きたくてな。

 “冒険者は労務局の管轄外だ”って言われるのは覚悟の上だが」


「そう言い切れたら楽だったんですけどね」


 俺は、紙束から目を離さずに答えた。


「残念ながら、“軍務省からギルドへの依頼”だって山ほどありますから。

 完全な管轄外って顔をするわけにもいかない」


 リシアが小さく頷く。


「実際、前線では“冒険者パーティと兵士の混成隊”も多いですしね」


「混成隊が崩れた原因が、“冒険者側の過労”だったら、それはもう軍務省の問題でもある」


 ガルシアが、感心したように片眉を上げた。


「思ったより話が早いな。もっと“役人臭い”と思ってた」


「それは褒め言葉で受け取っておきます」


 *


「前置きはこのくらいにして、本題に入りましょう」


 俺は紙束から一枚抜き取り、机に置いた。


「ギルマスが“最低限の線”を引きたいと思っているのは、どこです?」


「“連続でどれだけ依頼を受けていいか”だな」


 ガルシアは即答した。


「うちは、一応“依頼票”に“推奨休息日数”を記載している。

 だが実際には、“ご利用は計画的に”と同じで、誰も守っていない」


「“読まれてない”どころか、“読まれているけど無視されている”ラインですね」


「そうだ」


 ガルシアは、自嘲気味に笑った。


「“稼げるときに稼ぎたい”“手持ちが少ない”“ランクアップに必要な討伐数が足りない”――理由はいくらでもある。

 それを、“ギルドの窓口で“今日はもうやめておけ”と言って止めるのが、どこまで許されるか」


 リナが、控えめに手を挙げた。


「実は今も、“三日連続高危険度依頼は受けさせない”って、窓口の内規では決まってるんです。

 でも、“今日だけだから”“あと一件だけだから”って押し切られることも多くて……」


 分かる。


 “今日だけだから”は、人を潰す魔法の言葉だ。


「そこで、“労務局の見解”を借りたいわけですね」


 俺は、紙束の他のページをめくりながら言った。


「“ギルドの勝手な決まり”じゃなくて、“王国がこう言っている”って形にできれば、“押し切り”に多少は対抗できる」


 ガルシアが、煙管をトントンと灰皿にあてた。


「そういうことだ」


 *


「まず前提として」


 紙束を机に広げる。


「冒険者は、“雇われていない”ので、“勤務時間”という考え方はそのまま持ち込めません」


「だろうな」


「でも、“身体が持つ時間”は、冒険者も兵士も書記官も大差ありません。

 “一日八刻以上、連続して命を張る行動は続かない”――これは、軍のデータでも出てます」


 ガルシアとリナが、同時に身を乗り出した。


「“命を張る行動”?」


「戦闘、迷宮探索、護衛のうち、“いつでもすぐに戦闘に移れる状態でいる時間”ですね。

 逆に言うと、“街で装備を整えている時間”とか、“宿で寝てる時間”とかは含みません」


「……面白い線の引き方ですね」


 リナが、目を輝かせる。


「“仕事してる時間”じゃなくて、“死にかけてる時間”で見るんですね」


「極端な言い方をすると、そうです」


 ギルドの書類の端に、一日の簡単な線を引く。


「例えば、“迷宮探索六刻+護衛二刻”なら、“命を張ってる時間八刻”。

 それを三日連続でやれば、兵士なら八割が“戦闘力低下”の状態になります」


「……冒険者だって、似たようなもんだろうな」


 ガルシアが、顎を撫でる。


「迷宮から戻ってきて、“その足で街道護衛”なんてのは、確かによく見る」


「そこで、“推奨休息日数”を“危険度×連続日数”で決めてはどうかと思います」


 紙に簡単な表を書く。


「危険度C(通常の魔物討伐)――一日なら“休息ゼロ〜一日”、二日連続なら“休息一日”。

 危険度B(高位の魔物や長時間の探索)――一日で“休息一日”、二日連続なら“休息二日”。

 危険度A(迷宮最深部やドラゴン級)――一日で“休息二日”。“連続二日は原則禁止”。」


 リナが、わぁ、と小さく息を呑んだ。


「“危険度”と“連続日数”で休息を決める……。

 これなら、“窓口で即答できますね”」


「“ギルドの推奨”ではなく、“軍務省と労務局との共同勧告”にしてしまえば、なおさらです」


 ガルシアが片目を細めた。


「“軍務省”も乗ると思うか?」


「“過労で使い物にならない冒険者を混成隊に入れたくない”って顔をしてた連中が、講習会に少なからずいましたから」


 十二話の講習会の光景が頭に浮かぶ。


「“冒険者の働き方をマシにしたほうが、軍にとっても得だ”という理屈で押せば、話は通るはずです」


「……なるほどな」


 ギルマスは、煙管を灰皿に置いた。


「“ギルドの都合”で言うより、“王国全体の戦力維持”って看板を掲げたほうが、説得力がある」


「それともうひとつ」


 紙に、別の線を書く。


「“同一パーティの連続依頼数の上限”を、“危険度に応じて”決めてしまうのも手です」


「“三日連続まで”とか、そういうやつか?」


「例えば、“危険度B以上の依頼は、同一パーティで連続二日まで”とか。

 “どうしても三日目を受けたいなら、一人は交代要員を入れること”とか」


 ガルシアが、じっと俺の顔を見る。


「ずいぶんと、ギルドの中身に踏み込むな」


「“そこに踏み込まない”と、“死人の数”は減りません」


 まっすぐ返す。


 数秒の沈黙。


 やがて、ギルマスはふっと口元を緩めた。


「気に入った」


「え?」


「“ギルドは管轄外ですから”って逃げると思ってたんでな」


 ガルシアは腰を浮かせ、棚から一枚の板を取り出した。


「実はな――」


 板には、見慣れた格子が刻まれていた。


 名前と、日付と、印。


「“受付嬢たちの夜勤表”だ」


 リナが、ばつが悪そうに頬をかく。


「レオンさんに前に会ってから、“これ絶対倒れるやつだ”って思って、勝手に作っちゃったんです」


「勝手に、じゃない。助かった」


 ガルシアが、板を軽く叩く。


「“受付は座ってるだけだから楽だろう”って言うやつは多い。

 だが、“依頼者と冒険者の板挟み”と“書類の山”の前では、兵士だろうが書記官だろうが潰れる」


 受付の夜勤回数表には、赤い印がいくつか付いていた。


「“同じ子ばかり遅番に入っている”のを、こいつが見つけてな。

 “これ、倒れる前に線引かなきゃダメなやつですよね”って言いやがった」


 リナが、照れくさそうに笑う。


「“王都の労務局にいる人が、そう言ってました”って」


 ああ、と小さく息が漏れる。


 言ったな、そんなこと。


「だから、ギルドの外側の話をする前に――」


 ガルシアは夜勤表の板をこちらに向けた。


「“まず自分たちから”だ。

 受付の連続夜勤は禁止。

 “迷宮帰りのパーティが押し寄せてきそうな夜”は人を増やす。

 ――そうやって、うちの“見える板”も増やしてきた」


「やっぱり、世界は変なところでシンクロしてますね」


 俺は笑ってしまった。


「魔王軍の監査官も、同じこと言ってましたよ。“まず自分たちから是正しよう”って」


「“魔王軍にも人事がいる”って噂は聞いた」


 ガルシアがニヤリと笑う。


「“魔王軍のほうがホワイトだ”なんて言われたら、こっちの面子が立たんからな。

 ――うちも、せめて“灰色”くらいにはしておかんと」


 *


 結局、話はこうまとまった。


 一、“危険度×連続日数”に応じた“推奨休息日数”を、ギルド受付で明示する。

 二、“危険度B以上の依頼は、同一パーティ連続二日まで”を原則とし、それ以上は“交代要員必須”。

 三、“ギルド職員(受付・記録官)の夜勤回数表”は、ギルド内の掲示板に貼り出す。

 四、“この勧告は、軍務省および王立労務局の共同名義とする”。


「四番目が一番やっかいですね」


 帰り際、リシアがぼそっと言った。


「軍務省に説明に行く人、誰です?」


「局長じゃない?」


「レオンさんですよね」


「だろうね」


 見事な三段オチだった。


 *


 ギルドを出ると、さっきまでより少しだけ空が暗くなっていた。


 通りの向こうには、軍務省の塔が見える。

 そのさらに先には、王城の塔。


 そして、地の底には、暗部の階段。


(……思ったより、世界はつながっている)


 砦、王城、地下保全部、冒険者ギルド。

 全部、別々の場所で、別々の働き方をしているようでいて、実際には“同じ戦場”の周りをぐるぐる回っている。


 誰かが倒れれば、どこかで穴が空き、その穴を埋めるために、また誰かが無理をする。


 その連鎖の中で、“せめてどこかに一本は線を引く”のが、俺たちの仕事だ。


「レオン」


 隣で歩いていたリシアが、ふっと笑った。


「また、“仕事増やしてる顔”してますよ」


「気のせいだよ」


「気のせいじゃないですね」


 労務局の残業回数表が、脳裏に浮かぶ。


「大丈夫。“ギルド案件用の時間”は、“残業”じゃなくて“外回り”って言い張れば――」


「それ、絶対ヨアナさんに通用しませんからね」


 先回りされるあたり、うちの局は本当に手ごわい。


 *


 翌日。


 労務局の机に向かって、“ギルド向け共同勧告案”の文言をひねり出していると、通信札が淡く光った。


『――魔王軍統一兵站局労務監査課 ギルゼン・ヴァルナ』


 またか、という苦笑と、少しの期待が混じる。


 魔力を通すと、短い文が浮かび上がった。


『こちらでも、傭兵団および独立遊撃隊の“連続出撃”が問題になっています。

 “ギルドのような組織”と聞けば、そちらに先例があるのではないかと。

 ――いずれ、“非正規戦力の働かせ方”についても、意見を交わせればと思います』


 最後に、ひとこと。


『“まず自分たちの当直表から”――覚えておきます』


「……向こうも、ちゃんと見てやがる」


 俺は札を伏せて、しばし天井を仰いだ。


 王立労務局監査官、レオン・グラハム。


 次に赤線を引くのは、ギルドの掲示板か、傭兵団の出撃表か。

 あるいは、そのどちらもかもしれない。


 世界中の“雇われた者”と“雇われていない者”の働き方に、少しずつ線を引いていく。


 その仕事が、どこまで届くのかは分からない。


 ――でも、ギルドの扉の奥にも、“見える板”が一枚増えた今日なら。


 世界は確かに、ほんの少しだけマシになった、と言ってもいい気がした。


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