009 ダンジョンに行こう
「よし! ダンジョンに行こうぜ!」
次の日の朝食でのこと。オレはまだ眠たそうな表情をみせるリーズにそう宣言した。普段のキリッとしたリーズも好きだけど、ちょっととろんとしたリーズの表情も好きだぁ。それだけ気を許してもらえているような気がして、なんだか嬉しくなる。
そんなリーズの表情が強張り、その大きな目を見開いてオレを見た。
「本気!? 昨日あれだけボロボロになって帰ってきたのに、今日も行くの!?」
「そうだよ?」
たしかに、昨日はホーンラビットにボコボコにされたが、それは前半だけだ。後半は、無傷でホーンラビットを倒せるようになった。オレだって成長しているのだ。
「今日はリーズにもダンジョンに来てもらおうかなって」
錬金術をおこなうには魔力が必要だ。そして、リーズのレベルはまだ一。MPの最大値が少ないのだ。こんな状態では効率が悪い。レベルを上げてMPの最大値を増やした方がいい。
「でも……。やっぱりダンジョンよりも街の外の森に薬草を取りに行った方がいいんじゃない?」
「それも考えたんだけどねぇ……」
そしたら、薬草も手に入って一石二鳥なのはオレでもわかる。
だが、今回の目的はリーズのレベルアップだ。それを考えれば、モンスターがわんさか出るダンジョンの方が最適だ。
それに……。
「今、街の外に出るのは危険だと思う。またあいつが出ないとも限らない」
「ッ!」
そう。あいつ……。ソウルイーターの存在がどうしてもチラついてしまう。
ゲームの通りなら、森に出てもソウルイーターに襲われることはない。だから大丈夫とは言えるが、この世界はゲームとは決定的に違う点がある。
それが、オレの存在だ。
ゲームの通りならば、ギーはソウルイーターに魂を奪われ、そのまま目覚めることなく衰弱死する。
だが、この世界ではなぜかギーの体の中にオレの意識が入ってしまった。
ソウルイーターからすれば、殺した人間が生きていることになる。今のオレたちでは、ソウルイーターには勝てない。興味を持たれたら終わりだ。慎重過ぎるくらい慎重に行動を決めていきたい。
「だから、ダンジョンに行ってレベルを上げよう。その方が安全だ」
「レベル?」
不思議そうに首をかしげるリーズに、オレは頷いて応える。
もしかしたら、この世界にはレベルの概念がないのか? まぁ、ゲームみたいにステータスを見れるわけじゃないし、不思議じゃないか。
「モンスターを倒せば、強くなれるのはリーズも知ってるだろ? たくさんモンスターを倒して、魔力を増やした方が錬金術の成長も早いよ」
「そうかもしれないけど……」
「だから行こう! ダンジョンへ!」
◇
あたし、リーズは差し出されたギーの手を見つめていた。この手を取ってしまってもいいのかどうか……。
私は視線を上げてギーの顔を見る。
ギーはすごく自信に満ち溢れた顔をしていた。威勢のいいことを言うけど、本当は人一倍臆病なギーらしくない。
不思議よね。目の前にいるのは間違いなくギーのはずなのに、まるで別人のように感じてしまうことがある。
死にかけた経験が彼を変えてしまったのかしら?
それに、ギーの持つ錬金術の知識も不思議。ギーは死にかけてからというもの錬金術にとても詳しくなった。
本人はちょっと小耳に挟んだなんて言うけど、ちょっとどころではない知識量だわ。勉強しているあたし以上に詳しいのは確実だと思う。
ギーは何かを隠している。あたしの勘がそう囁いた。
それが何なのか、突き止めたい。
でも、あたしはギーに恩がある。あの大きな骨のモンスターに襲われた時、身を挺してあたしを守ってくれたのはギーだった。
ギーが黙っているうちは、あたしも余計な詮索は止めておきましょう。いつか、ギーが自分の口から語ってくれることを信じて。
でも、どうしようかしら?
ギーはダンジョンに行きたいようだけど、ギーは昨日ボロボロになって帰ってきたのよね。臆病なギーなら、「もうダンジョンには行きたくない」と言い出しても不思議ではない。でも、ギーはまたダンジョンに行きたいみたい。
あたしはギーを止めるべきなのかしら?
でも、本人は行きたいと言ってるし……。
「ええ……」
あたしは迷った後、ギーの手を取ることにした。お金を稼がなくてはならない以上、避けては通れない道ではあるもの。ギーが乗り気なことに感謝しておこう。
それに、今度はあたしがギーを守ればいいのよ。ポーションを多めに持って、ダンジョンの恐ろしいモンスターからギーを守ってみせるんだから!
「よし! 決まりだ! じゃあ、ご飯を食べたらさっそく出かけようか。リーズはダンジョン初めてだったよね? オレが案内するよ。と言っても、オレも第一階層しか行ったことないけど。でも、安心して。ダンジョンの第一階層にはホーンラビットっていうモンスターしか出ないんだけど……」
あたしと一緒にダンジョンに行けることがそんなに嬉しいのか、ギーは笑顔を浮かべて饒舌に語り始めた。
ギーが笑っている。それだけであたしの胸がなんだか温かいもので満たされていく。
ギー、生きていてくれて本当によかった。
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